File-55 Life with pleasure of four seasons時を紡ぎ、四季を楽しむ暮らし
June 03, 2022
Café 季
かつての栄華を今に残す、地域で愛される庄屋屋敷
青々と連なる讃岐山脈。その豊かな森林に囲まれ、財田川に沿うように開けた盆地には、長閑な田園風景が広がる。香川県南西部に位置する三豊市財田町は、自然に恵まれた美しい所だ。
『藤の寺』で有名な『萬福寺』に残る言い伝えに、嵯峨天皇の御代で大干ばつがあった年、この地だけは稲穂が実ったことから「たからだの里」と呼ばれたという。
田畑の合間にちらほらと見える建物の中に、『季』と描かれた大きな白い蔵が建っている。立派な表門と、漆喰の土塀に囲まれたこの屋敷は、地元では『宇野邸』と呼ばれ親しまれている。
宇野家は、多度津藩に仕えていた江戸時代から続く庄屋の旧家で、当時は仕えていた殿様よりも財を成し、多度津藩まで私有地だけで行き来できたと伝えられているほどの大地主だったそうだ。
Café 季 の外塀からの様子。大きな蔵に「季」の文字。
漢字の成り立ちである、子供が稲を持ちはしゃぐ様子をロゴで表現した(提供:Café 季)
左:立派な表門にロゴと家紋が映える(提供:Café 季)
右:店舗である母屋。庭には地元の方が植えてくれた花々が咲き誇っている
『Café 季』は、この築百年を優に超える宇野邸を改装し、二〇二〇年四月にオープンした。
オーナーパティシエの石井優香さんは、三豊市の地域おこし協力隊の職員として、四年前に横浜市から三豊市に移住。「古民家の魅力は、日本の気候に合った生活ができること」と話す。
大学では食物科学を専攻していたが、授業で日本家屋の素晴らしさに触れる機会があり、古民家でカフェをするのが夢になったという。
宇野邸を紹介された時は、あまりにも広くて大きな物件だったので困惑したそう。そんな石井さんの背中を押してくれたのは、地元の方達だった。
「何の損得もなく、『草むしりでもなんでも、できることがあれば遠慮なく言って』って声をかけてくれて。そんな温かい言葉をもらったら、もうやるしかない。成るように成る、と思いました」
左:庭が楽しめる客室。室内のあちらこちらで思い思いの空間を楽しめるスペースがつくられている
右上:蔵に眠っていた欄間をパーテーションにリメイク。琴平の風景が生き生きと彫られている
右下:地元の方と一緒に竹を切ってつくったスノコ。会計前の板間や段差、手すりもDIYで
飲食店ということもあり、厨房だけは業者に頼んで改装したが、宇野邸が積み重ねてきた百年以上の時間の流れを引き継いでいきたいと、修繕は最小限にした。雨漏りの跡さえこの家の歴史の一つ。だからこそ敢えて残したのだとか。
地元の元大工だった方や、DIYが好きな方に手伝ってもらいながら、気になる所だけをセルフリノベしたそう。一番大変だったのは、修繕よりも掃除だったと笑う。
玄関先の着物をリメイクしたのれんや、店内にある季節に合わせた装飾、庭の草抜きに花の手入れなど、地元の方達が率先して手伝ってくれた。
そうやって集まってくれる、地元の人たちにとって思い出の詰まった大切な場所を、皆が楽しく過ごすための拠点にしたいと始めたのが『倶楽部活動』。
「地域には凄いスキルを持った人がたくさんいます。こんなに広い宇野邸を、カフェだけに活用す
左:床の間に飾られている着物は、石井さんが現在住んでいるシェアハウスの大家さんが、季節替りで持ってきてくれるそう
右:ボロボロになっていた襖を、剥がれた壁の腰紙にと、切り取って再利用した
毎年五月になると、「高松城鉄砲隊」の友人が甲冑を飾ってくれるのだとか
るのはもったいない。いろんな人に活用してもらうために、Café 季のもう一つの過ごし方の提案として始めました」
倶楽部活動は、場所代をもらわず、開催日時などは各部の方達にまかせて、活動した後にお茶を飲んで過ごしてもうというもの。
何気ない日常の中で、日本の四季や自然に触れ、採れたての旬の食材が食べられる喜びを感じられる。そんな居心地の良い場所でありたいと、石井さんはいう。
庭には、地元の方が植えてくれた、水色のネモフィラが揺れている。夏には向日葵が咲くようにと、先日もタネを植えてくれたそうだ。
支えてくれるたくさんの地元の方たちに感謝しかないと、穏やかな笑顔で話してくれた。
ー2022年6月
ネモフィラの咲く庭
カフェで提供してくれるスイーツ。左は「あったかスコーンと季節のフルーツソース」、
右は「焼きたて限定スイーツ バニラスフレと炭焼コーヒーのセット」(提供:Café 季)
Café 季 HP
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