あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-28 Modern designed 70 years-old farmhouseモダンな雰囲気漂う築七十年の農家屋

December 18, 2020

しわく堂

無国籍空間

米の形を模った表札が印象的な築七十年の農家屋がある。香川県の西端、観音寺市の田畑広がる地域に悠然と佇む〝やつおの家〟。
 ここは、建築設計事務所「しわく堂」のクリエイティブディレクターを務める平宅正人さんの自邸。
「これまで文化財建造物の修理やリノベーションに携わっていたこともあり、当初から自宅は中古物件を改修する予定でした。空き家バンクで見つけたこの物件は、前の家主さんが、屋根を葺き替えていたことや基礎の状態が良好だったこともあり、内見後すぐに購入を決めました」
 大正から昭和初期にかけて流行した和洋折衷の住宅を「文化住宅」と呼ぶように、現代の暮らし方に合わせてリノベーションした農家屋の自邸を「ブンカノーカ(文化農家)」と名づけた。

鴨居がかつての間取りを想像させる。昔ながらの低さを解消するために、リノベの際に床を20cm下げた

「もとの屋根や軸組の形をそのまま活かして、ワンルームにしたかった」というリビングダイニングは、重厚感のある二層の瓦屋根の外観からは想像できないほどの、開放的な空間が広がる。聞くと、その吹き抜けになった天井の高さは、六メートルもあるという。〝現し〟になった湾曲の梁。そして新たにつくられた壁に収まりきらないほどの梁が、家屋の壮大さを物語っている。
 縦桟を打った花浅葱色(はなあさぎいろ)の壁は、ヨーロッパレトロのようなダイニング照明と相まってモダンな雰囲気を醸し出す。「あえて洋風なものを組み合わせることで、良い意味でのミスマッチが生まれるんです。国籍不明感というか。これまで古民家でできなかったことをしたかったんです」
 かつて納屋で使われていたという厚みのある木戸を開けたところにあるレストルーム。彩り豊かでシックなウィリアムモリスのデザインを纏った空間が気分を程良く華やかにしてくれる。

ホワイトアッシュでつくられたトイレのミラーキャビネットや洗面台は平宅さんのオリジナル。
他にもキッチンやダイニングテーブルも自身で手がけた

 新築のような快適さと、西洋を思わせるデザインやインテリア。
その要所に残る経年変化の美しさが、築七十年の古民家だったことを想起させる。
「ブンカノーカ」、それは古民家から滲み出る懐かしさではなく、新旧の融合が生み出す全く新しい空間だ。

ー2020年9月

左:手を一切加えていないという天井の梁は、味わい深い趣きを醸しだす
右:ここは、かつて母屋と納屋をつないでいた場所を一室にした

しわく堂HP

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