あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-25 Memories that never fade awayいつまでも色褪せない記憶

November 13, 2020

Kaorin

「見栄を張らず理想に向かって」

花屋「Kaorin」は、築およそ四十年の大きな空き倉庫の一角で産声を上げた。
 そこは高松市三谷町の田畑広がる地域。訪れた時は、ちょうど稲刈りを終えたばかりの頃だった。秋の気配を纏う店の入口には、背の高いサボテンや、細長い幹にもこもこと葉が茂った木など馴染みのない多種多様な植物が並ぶ。
「カオリンさん」と慕われるオーナーの山下香里さんは、誰もが楽しいと思える花屋をつくりたいと七年前に独立。そこで店舗の場所として選んだのが、長年使われていなかったお祖父様の工場だった。当初は、アトリエ兼店舗として倉庫を利用し、トラックでの移動販売が中心。それから三年の間に多くの出逢いと巡り合わせがあり、現在の「Kaorin」に至ったという。

二年前にシャッターを四枚外し、その二枚分のスペースにドアを設置。LA:M Inter Panningが施工した

思わず「かわいい」と声がこぼれてしまうようなドライフラワーや生花が並ぶ一室は、工場だった頃には、事務所として使われていた場所。
 オープン当時、限られた予算のなかで理想の空間をつくるために、セルフリノベーションしたという。床は、近所のホームセンターで一番安い杉の板材を購入し、木材を扱う仕事をしていたお父様が加工を施した。合板の棚や流木の装飾は、ドライフラワーと相まって、ナチュラルなアンティーク調の味わいを醸しだしている。
 自然色の空間に映える色彩豊かな花の向こうに見えるショールームは、店舗に来た人が植物のある暮らしをイメージしやすいように、というカオリンさんのこだわり。一つの広い空間だった事務所の東側に、壁を一枚増やすことで、家のリビングを想定した部屋をつくった。
 少しずつリノベを重ねることで、倉庫内のスペースは、心躍る空間へと変貌した。

ショールームのさらに奥に広がる二つの空間。
左:輸入壁紙のお店「+Bird」。カオリンさんがイベントで出会ってからの付き合いだという。
五年前、何もなかった場所に、一つのショップができあがった。
右:工場としての役目を終えた後、レンタル物置として貸し出していた倉庫奥のスペース。
現在は商材アウトレットを主としたインテリアショップ「Kedama」のリペアされたアンティーク家具が並ぶ

 限られた予算のなか、自ら手を加えたリノベーションや、お客様に楽しんでもらえるようにとプロに施工してもらった改修。いつも理想の空間を思い描いて店づくりをしてきたカオリンさんは、
「目指せ『植物パラダイス』です」と顔をほころばせながら話す。
 取材の最後に、「リノベーションはその時の想いや時間を残すことができる」とカオリンさん。夢を応援してくれたお父様と一枚一枚丁寧に張った床は、お店を始める時の想いとお父様と作業した時間を思い出させてくれるという。この空間の中でも思いが一番詰まったところだ。
 どんな形にかわろうとも、この場所に込められた記憶は、この先も色褪せることはないだろう。

ー2020年11月

左上:かつて工場の食堂で使われていたテーブルの土台に板を置き、什器としてリメイク
左下:左からカオリンさんとスタッフのマエさんとマキさん。このカウンターも廃材屋さんから譲ってもらったという
右:独立して約三年、移動販売をメインにしていた「Kaorin」。この「Kaorin Go」は店主とともに各地に植物を届けた。
仕事で重機を扱っていたお父様が、毎度トラックに乗せてくれていたのだとか

Kaorin HP

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