あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-49 Wen old wisdom new故きを温ねて新しきを知る

November 26, 2021

片岡物産

新しい技術で
再び輝きを取り戻した家

  

ここに住みたい。嫁いできた家の母屋をみて、そう直感したKさん。築90年のその家は、かつてご主人の祖父が暮らしていた場所。広い土間のある古民家に住むことに憧れていたKさんは迷う事なく、この家をリノベーションして住むことに決めたそうだ。
 とはいえ、手を付ける前の家屋は増改築を何度も繰り返した結果、柱がゆがみ、あちらこちらから隙間風が吹く状態。新屋を新築したことで、しばらくの間空き家になっていたそうだ。しかしKさんは思い描くイメージをずっとその建物に持ち続けていた。そのイメージを現実のものにしたのはリノベーションを手掛けた片岡物産。今回、片岡物産の片岡暁美さんに聞くと、リノベーションにあたって数パターンの施工案を提案したそうだ。

左:月食をイメージしたライト
右:天井を撤去し開放感が増したリビング。裏山からの心地よい風が入る

時間をかけて丁寧に打ち合わせを重ね、着工までに1年もの時間を要した。しかしその時間があったからこそ、イメージの共有ができたと言う。
 作業は、残して活かす部分と不要な部分を分別していくところから始まった。古い床、壁、天井を撤去していく。すると今までは見えなかった、立派な丸太の梁や柱が現れてきたそうだ。今回それらの柱を現しにして活かすことにより、より力強い印象の家となった。
 また主要な柱と梁以外に、耐震補強の為に金属の筋交いを要所に組み込んだ。そのため古民家リノベといえども、一般的な新築の木造戸建てと同じ耐震等級1相当の評価を取得している。併せて断熱工事もきちんと施したので、1階の天井を外し吹き抜けにしても過ごしやすい空間をつくることができた。

左:玄関を入ると広がる土間スペース。リビングと2階をつなぐ階段は槇塚鉄工所で製作
   右:憧れの薪ストーブはベルギー製のもの

 家のコンセプトは「和に偏らず、建具や照明などに海外のテイストや現代的なものを取り入れたモダンな部屋づくり」と片岡さんは話す。インテリアやキッチンなどの設備もひとつひとつこだわりはあるが、イメージは統一されていて、新しいものも古いものも違和感なく、しかしそれぞれに存在感がある。
 1階のリビングと洗面をつなぐ廊下の間にあるウォークインクローゼットの扉は、かつて居間で利用していた建具。組手細工が施されモダンレトロな雰囲気があるこの建具を、Kさんはどうしても残したいと希望した。昔の面影が残る扉は新しい家族を優しく見守ってくれている。
 新しく設置された鉄の階段で2階に上がると屋根裏をワンフロアにした寝室がある。屋根裏といえども高さと広さは十分にあり、1本の太い梁とそれを支える柱、塗り直した土壁がまるでギャラリーのような空間に。何気なく置かれたギターもその場にしっくり馴染んで落ち着いた部屋となっていた。

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左:細かい組手細工が施された建具。以前、居間で使っていたものを再利用した
 中:洗面所の壁の一部を当時のまま残した。これは片岡さんのアイディア
 右:右はご主人、左は奥様用。鏡の形はそれぞれのイメージで違う形にしている

 親から子へ、子から孫へ代々家を住み継ぐという事は、今となっては非常に少なくなってきた。しかし、新築では表現ができない良さを見つけて、リノベーションすることによって住み継いでいく、まさに「温故知新」を体現したような家に出会えた。

  • ー2021年11月

    左:広々とした2階の屋根裏部屋
    右:屋根裏を整理していて見つけた柱時計。時計屋で修理してもらい、この家と共に再び時を刻む

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