あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-15 135 years old Kominka as home and store築百三十五年の古民家を自宅兼お店に

August 28, 2020

NISHINISHI

ありのままの形を楽しむ

ことでん三条駅を下車し、御坊川沿いを歩いていると、どこか懐かしさを感じる古民家がある。脇にあるネムの木は、家を見守っているかのよう。趣のあるその場所は、NISHINISHI(ニシニシ)。こちらは迎え入れてくれた西村ゆみこさんと、いいまあやさんが縁を感じて選んだ作品が並ぶセレクトショップで、いいまさんご家族の住居でもある。
 NISHINISHIが現在の場所に移転したのは十五年前。のびのび子育てをしながらお店ができる環境を求めて、出会ったのが築約百三十五年の古民家だった。引越した当時は、以前建築事務所が入っていたこともあり、床全体に板が張られていたが、いいまさんは、それらをすべて取り払うことに。そして畳や建具、土間などをもとの形に戻した。

外観。手前にあるのが、家主さんがずっと大切にしていたというネムの木

これができたのは長年住んでいた家主さんが畳や建具を大切に保管していたからだそう。土間や畳、扉や窓は、家主さんが住んでいた当時のまま。大きく手を加えたところは、壁部分と奥の間の天井のみ。壁は、家族みんなで紙を貼って白いペンキを塗り、ギャラリー奥の天井は、ご主人で木工職人のイイマヒロシさんが張り替えた。家主さんが愛着をもっていた玄関の下駄箱もまた、板を張り白い塗装をすることで、風情をとり戻した。フロートガラスに換えた天窓から土間に差す光は、かつて農家だった家の情景を想像させるかのようだ。
「この家のおかげで昭和の子育てができました」と微笑むいいまさん。長い庇によって室内には陰影が生まれ、古民家ならではの幻想的な雰囲気が醸し出される。夏でも涼しく、ほの暗く、子どもゴコロにはちょっぴり怖いような、そんな場所。少し不便を感じても、作り替えることはせず、ありのままの形を楽しんでいる。

左上:新しく塗られた白壁が作家さんの一点ものの作品を引き立てる
左下:子どもの文字が書かれた黒板の隣には会津木綿の巾着鞄
右:かつて味噌作りをしていた暗室の脇に、光取りのためにつくられた土間の天窓

 初めは戸惑ったという家の広さを利用し、作家さんの展示会やワークショップも開催するなど、人と人が繋がる空間づくりをしている。
 畳があるから靴を脱ぎ、座ってゆっくり作品を見る。自然と心の距離も近くなり、みんなで作品についてや他愛もない話をする。お店のスケジュールを知らせる黒板には、可愛くて消せずにいるという「いらっしゃいませえ」と書かれた子どもの文字。なんだか懐かしく、ぬくもりのある空間だ。ふと気配を感じて、外に視線を向けた。すりガラスの外にはネムの木。清々しい緑が作品にそっと色を添えている。

ー2020年8月

左:レトロな木枠のすりガラス。展示されているのは、一度履くと手放せなくなると、リピーターの多い天然素材の靴下

NISHINISHI HP

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