あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-21 The nostalgic guest house in Mure郷愁を感じる牟礼の宿

October 09, 2020

むれすずめ

世界各国のアンティークを集めて

シンと静まり返った夜明け、鳥のさえずりで目を覚まし、一日が始まる。屋島から吹く心地よい風に当たりながら、今日一日どんな日にしようかと考える。陽だまりのなかで景色を眺めながらコーヒーを飲もうか、それとも向こうに見える海まで足をのばしてみようか、、、山と海、贅沢なほどの自然と、とても心落ち着くこの空間。迷ってしまう。
 ここは、八栗山の山裾にある民宿「むれすずめ」。一日一組限定の宿だ。File.19で紹介したモロッコラグのお店、MAROCと同じ築百年以上の家屋にあり、MAROCオーナーの川越優さんのご主人、川越康雄さんがオーナーを務める。
「牟礼の自然や雰囲気を感じて、またこの町に戻ってきたい、と思ってもらえる場所にしたい」

  • このデッキからは、屋島まで臨むことができる

  • ゲストはよくこのピクニックテーブルで食事をとるそう

そう話す川越さんは、かつてバックパッカーとして世界各地を旅した。ローカルの宿に泊まり、その土地でしか味わえない時間を過ごしたそう。不安のなか初めて足を運ぶ異国の地で、あたたかく迎え入れてくれる人や心落ち着く場所との出会いは、思いがけない一生の宝物になる。川越さんは、自身が経験したそんな時間を、この場所で提供したいと思ったという。
 案内され、居間の椅子に腰を下ろした。MAROCと統一されたオレンジ色の空間から、縁側越しに見える緑豊かな景色もまた居間の一部のようだ。床の間の土壁は、あえて一部くり貫かれ、職人の作業工程を見せた仕上がりになっている。改めて昔の人の知恵に脱帽していると、その座っている椅子がモロッコのものだと聞いて驚いた。文化の違う国のものがこの空間の中で共存している。随所に見られる世界各国の家具と日本家屋の絶妙なバランスにも、川越さんのセンスと宿泊客への心くばりが感じられる。

左:くり貫かれた土壁は向こうが透けて見えるつくりに
右上:ツル模様のような白い鉄柵のドアはチュニジアのアンティーク品
右下:インドの建具とヨーロッパからのダイニングテーブルと椅子

 目新しさと懐かしさが相まって、新鮮ながらもとても居心地が良い。遠い国から訪れる人々にとって、自国のインテリアは、旅先での心の高ぶりをそっと落ち着かせてくれるだろう。様々な国のアンティークを使った空間づくりは、どの国からの旅行者にも懐かしい場所であってほしいという想いが詰まっている。
 夕べ、川越さんに教えてもらった散歩道へと出かけた。かつてイサム・ノグチも散歩したという段々畑で少し冷たくなった風を感じながら、今日の一日のできごとを振り返る。薄暗くなり宿に帰る頃、中から漏れる優しい光にまた心が和らいだ。

ー2020年10月

むれすずめInstagram

他の記事を読む

Copyright (C) IKUNAS. All Rights Reserved.