あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

Reborn mansion to fulfill the new role新しい務めを果たすべく、生まれ変わった屋敷

September 17, 2021

穴吹邸

一棟貸しの城宿で過ごす
特別な時間

高松港からほど近い城東町にあり、ひときわ豪華な門構えと日本庭園、天守閣をもつ屋敷「穴吹邸」。ここは建設会社の創業者である穴吹夏次さんが1970年に建てた邸宅で、高松でもシンボル的な建物。夏次さんの孫である穴吹英太郎さんがリノベーションを施し、2020年に一棟貸し宿としてオープンさせた。
 重厚な門扉をくぐると直ぐに目に入るのは、大人の男性の背丈ほどある庭石と大きく枝を広げた松の木。穴吹邸を見守り続けたこの松の木は、まるで執事のように訪問者を温かく迎えてくれる。奥に進むと細やかな彫刻が施された石灯篭や庵治石の雪見灯篭が続き、手入れが行き届いた日本庭園が訪れる人の目を楽しませてくれる。

左:樹齢100年の松の木
右:以前は錦鯉がいた池のあった庭

英太郎さんは、その一角にある芝生の庭を差し「ここにはかつて深い池があり、祖父がたくさんの錦鯉を飼っていました」と教えてくれた。夏次さんは全国の品評会で数々の賞を取る錦鯉のブリーダーとして名を馳せていたそうで、「朝起きて、ここで祖父と一緒に鯉に餌をあげるのがすごく嬉しかった」と昨日のことのように話す。リビングから出てすぐのベランダの下にある池で、毎朝、鯉の体調管理をしながら餌を与えるのが亡き祖父の日課だったのだとか。
 そんなにぎやかだった穴吹邸は、子どもたちが成長し独立していくとともに住む人も減り、やがて屋敷は空き家となった。
 英太郎さんが仕事や留学などで海外に拠点を移した後、高松に戻ってきたときに、いよいよ家を売りに出す話が持ち上がる。生まれ育った屋敷が無くなり更地になるなど、思いにもよらないこと。しかし、住み続けるには維持費だけでも相当な費用がかかってしまう。

左:宿泊者を出迎える暖簾
 右:北欧の家具と障子戸のコントラストがモダンなリビング

「天守閣があるこんなユニークな建物を建てようとする稀有な人はなかなか現れない」と建物を残したいという強い想いから、民泊経営の経験を持つ英太郎さん自身が運営することとなり、城宿「穴吹邸」として生まれ変わった。
 一番大きくリノベーションを施したのは玄関から入ってすぐのリビングダイニング。もとは台所とリビング、その奥にあった祖父母の部屋であった。それぞれを区切っていた壁と天井をすべて取り払い、開放感のある一部屋にした。部屋の中央にあるテーブルは宿泊者全員が食事を楽しめる大きさで、この部屋でみんなが集まってくつろぐことができる。
 この宿で家族や近しい人たちと、特別な時間を過ごしてほしいと願う英太郎さん。だからこそこの空間がある。
「私自身、四人兄弟の末っ子で、よく上の兄たちと喧嘩もしてましたよ」と笑いながら教えてくれた英太郎さん。家族の愛情を人一倍注がれていたからこそ、その家への想いも深いのだろう。

左:手をかけず当時のままの和室。緻密な大工仕事に魅了される
 右:2階にあるライブラリースペース。天井にある”ざる”を使ったオブジェが面白い

 生まれ育った屋敷のすばらしさ、故郷の美しさを再認識し、発信する場所に戻った英太郎さん。そして訪れる人にとっての思い出の場所としての新しい役目を担う「穴吹邸」。
 高松の新しいシンボルに生まれ変わり、この街の良さを知ってもらう案内役として、二人三脚は始まったばかり。

 

  • ー2021年9月

    左:2階には5部屋
     右:白い壁と濃紺の絨毯で統一された品のある佇まい

      

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    穴吹邸  HP

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