あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-33 The cultural transmission point in Ogijima 男木島の文化発信拠点 

March 22, 2021

男木島図書館/鍬と本

島を想う気持ちが繋いだ場所

つい先日就航したばかりの新造船『めおん』に乗って、男木島へと向かった。男木島は、人口わずか百五十人ほどの小さな瀬戸内の島。下船後歩くこと五分、島で唯一の「男木島図書館」へ到着した。
 二〇一六年に開館した島の私設図書館の館長、額賀順子さんと男木島出身のご主人、福井大和さんは、大阪からの移住者。図書館を設立する二年前に島に越してきた。移住を決意した当時、男木島には子どもがおらず、学校は二〇一一年から再開校の目処がない休校状態になっていたという。小学生の子どもがいた二人は、移住を実現するために、学校再開のための署名活動をし、島の小中学校の再開にこぎつけた。
 開校への働きかけをしたことから「学校を継続させる」助けになる活動はできないかと考えたという。

館内には寄付で集まった本が並ぶ

そこで、「島に住む人の役に立ち、旅人と島をつなぐ」拠点として図書館を設立することにした。しかし、図書館の物件探しは、思い通りに進まなかった。人の出入りが多くなることが予想された図書館は、賃貸では難しいということがわかってきたのだ。そこで二人は、思い切って母屋に隣接する築百年の空き家を図書館にすることにした。
 空き家の権利者を割り出すところから始まり、草抜きと瓦れき処理だけで一年以上かかったという。その後は、費用を抑えるためにDIY。初心者の二人が朽ち果てた空き家をリノベーションすることができたのは、家の修理のことなら…と島民に慕われている漁師さんや、ホームページを見て「手伝いたい」と集まってくれた多くのボランティアが力を貸してくれたおかげだという。
 図書館内は、木の温もりを感じる柔らかい雰囲気が漂う。机やイス、建具は、再開にあたって建て替えが必要となった学校から出た古材を使っている。

左:改装前の様子。
「荒れた空き家をどうにかしたい」という思いがあったものの、活用できるとは思っていなかったという(写真:額賀順子)
右:額賀さんの友人で、台湾で活動している建築家・五十嵐信夫さんが男木島図書館のために設計した図。
初心者でもわかるように、細かく記載されている

 島の人にとって懐かしいと感じる場所をつくることで、「図書館が、島の文化を残していける場所になれば」と額賀さんは話す。
 最後に図書館を五年運営して見えてきたことを活かして、図書館ではできないことをするために有限会社ケノヒとして開業したという島のコワーキングスペ ース「鍬(くわ)と本」に案内してくれた。できる限りありのままの形を残したという屋内は、かつての面影が色濃く残る。
「『学ぶ・働く・暮らす』場所として、働きながら島で暮らす体験をしてほしいと思ってつくった中長期滞在向けの施設です。多くの方に来てもらい、結果的に島への移住に繋がれば嬉しいです」
 男木島図書館同様、移住相談もできるこの場所は、島暮らし体験をする場として最適。現在改装中の宿泊スペースが完成するのが待ち遠しい。   写真/浜本康宏

ー2021年3月

『鍬と本』のフリースペース。SPELL DESIGN WORKSの河西範之さんが設計・デザインした。
床のタイルは島のタイル職人が張ったという。暖炉も設置予定。人が集い、談笑する様子が目に浮かぶ

かつて郵便局だった家屋。長い間物置きになっていたこともあり、外壁は改装するまで板で塞がれていたという

男木島図書館HP

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