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文学不動産

File-23 The new story with old memories かつての記憶と新たなストーリー

October 23, 2020

206 TSUMAMU

「ここでしか味わえないものを」

高松駅から海沿いを少し北東に進んだところで、静かな凪に浮かぶ漁船と連絡船が見えた。ここはかつて、貨物船がせわしなく行き交っていた港町、北浜。昭和初期に建築された倉庫街は、瀬戸大橋の開通により役目を果たした後、暫くの間閑散としていた。長きに亘り四国の物流を支えてきたその重厚感ある佇まいは、現在も変わることがない。
 この北浜エリアで二十年前に始まったのが商業施設「北浜alley」のプロジェクトだ。かつての記憶とともに、また新しいストーリーを重ねていってほしい、そんな想いのもと生まれた計画だったそう。
 瀬戸内海から吹く潮風で錆びたトタン壁に、ツタの葉が這った外観の倉庫街。その一角に、キッシュと焼菓子の専門店「206TSUMAMU(ツマム)」はある。

取材に訪れた際には、平日の昼間だったにもかかわらず、キッシュが残り一個という人気ぶり

この場所にはかつて「北浜alley」と同時期にオープンした海外輸入雑貨店とカフェの店「Naja(ナージャ)」があった。そのショップは「206TSUMAMU」オーナーの八重さんのお母様が営んでおり、当時八重さんは、カフェのキッシュづくりを担当していた。
 五年前に「Naja」を受け継ぎ再オープンさせたのが「206TSUMAMU」。
 フランスの暮らしを思わせるような白を基調としたかつての店内は、コンクリート打ちっぱなしの壁と梁や柱をそのまま活かしたモダンな内装に。そこに八重さんこだわりのメキシカンテイストが加った仕上がりになっている。
「雰囲気も手に入るものも、TSUMAMUに来ないと味わえないものにしたい」と話す八重さん。所々にペンキや釘の跡が残る古材でつくられたショーケース台には、他では味わえないような十種類以上のキッシュが並ぶ。

二階は「Naja」の内装のまま。“現し”になった梁は白く塗装されている。残された柱や扉から、かつてJA職員の社員寮だった面影を感じる。現在は、展示会などギャラリーとして活用している

「Naja」の頃から数えて、これまで四回もの改装をしているという。その自由さも、リノベーションの良さなのかもしれない。店主の想いとともに変わっていくこの場所。それは決して塗り替えられるのではなく、終わりのない物語のように綴られていくのだろう。
 木漏れびが暖かい窓際の席で、かつての記憶に思いを馳せる。

ー2020年10月

「Naja」のころの入口と改装後

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