あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-27 The borderless place where travelers and local interact旅人とローカルが交錯するボーダーレスな空間

December 04, 2020

Kinco.
 hostel+cafe

時代の面影を残して

高松市花園町の観光通りに、かつての金庫屋の趣きを可能な限り残したホステル兼カフェがある。その名も「Kinco.hostel+cafe(キンコホステル+カフェ)」。 
 何気なく街に馴染む四角い無機質な建物と、その中から漏れる灯りの温かさの対比も面白く、吸い込まれるように、ふらりと店内に入った。 
 入ってすぐの開放的なラウンジには、古書から旅に纏わる雑誌まで、多様な書籍がレイアウトされている。コーヒーを飲みながら、一人静かに本を読む人がいれば、手前のテーブルには、友人と語らう人も。この一つの空間の中で、訪れる人の様々な時間が交わる。
 ホステルのロビーでありながら、旅人とローカルが出会う交流の場でもあるこの場所。

カフェ入口には、四国の旬の食材を使った、「Kinco.」でしか食べられないスイーツが並ぶ

絶えず人が集い、それぞれが思い思いに過ごす様こそ、Kinco.が目指す「ホステル」の形なのだとか。
「高松は、一日で山も島も海も堪能できる。コンパクトな中に魅力がたっぷり詰まった街です」と話すマネージャーの鬼木陽介さん。五年前に東京から高松に移住した。瀬戸内海の凪にぽこぽこと浮かぶ島々。時が一瞬止まったかのように穏やかな海。そんな風景に魅了され、香川への移住を決意したのだそう。
 鬼木さんに案内され、ホステルスペースへと移動した。階段横には、エキゾチックに絵付けされた高松張子が手招きをしている。かつて事務所だった面影を残す直線階段を上り、セキュリティードアで仕切られた客室へと入った。
 一枚板を繋ぎ合わせるようにつくられた八つの二段ベッドは、不思議と圧迫感がなく、旅の疲れを癒してくれるような木のぬくもりを感じることができる。

左:それぞれの空間には、ミニテーブルとライトがあり、自分だけの時間を十分に楽しむことができる 
右:これまで使われていなかった二階奥の部屋はギャラリースペースに。作品とコンクリート打ちっぱなしの調和が
独特の世界観を生んでいる。取材時は、藏本秀彦展『たゆたう海に降る雨。そして光』が催されていた

 頭上で存在感を放つのは、オブジェのような赤茶の鉄梁。時を経たもの特有の風合いを生み出している。
 慌ただしい旅の合間に、自分自身の時間と向き合えるような心休まる空間。
 オープン時からあるこの空気感を守りつつ、新たな色も出していきたいと話す鬼木さん。モダンな雰囲気だからこそ、共存したらおもしろいであろう伝統芸能などのイベントも試みたいという。
 またこの場所に、世界中からの旅人が訪れ、国境を越えた時間が流れる日が待ち遠しい。

ー2020年12月

改装前の外観と、一階部分

Kinco. hostel+cafeHP

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