file-45 Thatched-roof house at the foot of the mountain that inspires creativity創作意欲をかきたてる山裾の藁葺の家
October 01, 2021
多閑坊
十年かけて完成させた風情ある住まい
丸亀市綾歌町に「たかんぼさん」という愛称で知られる、大高見峰(おおたかみぼう)という山がある。昔は鷹峰と呼ばれていたそうだが、讃岐四大天狗の一人「大高見坊天狗」の伝説があることから、いつしか山の名前になったそうだ。
その山の裾野に、彫刻家大西康彦さんのアトリエ「多閑坊(たかんぼう)」がある。明治三十五年に建てられた農家の平家建てで、廃屋同然の状態だったのを、縁があって二十年ほど前に譲り受けたのだとか。アトリエの名前は、山の愛称になぞらえて、時間を忘れてゆっくり過ごせるようにという意味を込めて名付けられた。裏にあった離れを解体して出た古材や廃材を集め、知り合いの大工に手伝ってもらいながら十年がかりでセルフリノベしたそう。
左:登り口の門柱。廃棄されていた橋の親柱を再利用した。彫刻の字は大西さんの恩師、佐藤忠良さんにお願いしたという
右:坂を登ると作業場が見える
最初の五、六年は電気の取り付けもできず、日の出とともに来て日の入りとともに帰宅していたという話が信じられないほど、現在はガラリと様変わり。
ギャラリーとなっている主屋の屋根は藁葺きをガルバニウムで覆い、天井裏にはざっくりと竹で編んだスノコの上に筵(むしろ)を敷いて、さらに壁土を乗せた大和天井と呼ばれる昔の工法。土ぼこりが落ちてこないように貼られていた天井のプリント合板を除きそのまま見せることで、古民家本来の風情のある雰囲気を醸し出している。
作業場として使っている建物の方は、もとはタバコの乾燥部屋だった小屋と、隣接した屋根と柱だけの薪小屋を一つにしたものだった。土壁を作るために左官屋に頼んでコマイを編むところから始めたが、柱が等間隔に揃っていないので、建具の取り付けも大変だったと大西さんは言う。
左:主屋玄関。畳は腐っていたので外して板の間に
右:竹で編んだスノコと筵がまるで茶室の筵天井(むしろてんじょう)のよう
曲がりくねった太い梁を巧みに組んだ天井。大工の妙技に思わずため息が漏れる
「貧乏彫刻家で、お金もなかったからね。もとの状態を軸にして、あるもので工夫しながら、自分の生活に合うようにしました」
芸術家ならではの美的センスと発想が、廃材を新しい家の一部にし、しっくりとこの家に馴染んだ新しいデザインに生まれ変わらせている。
ギャラリーの奥の台所には囲炉裏もあって、そこで奥様とご飯を食べるのだとか。裏手がすぐ山になっていて、畑もある。のどかな暮らしをするにはうってつけの場所だが、「多閑」の割に次々と来客があるので、想像していたよりも大西さんに暇はなさそうだ。
十一月にはこちらで奥様主催の手作り展も開催されのだとか。「多閑坊」の見学もできる、良い機会になるかもしれない。
ー2021年10月
左、右上:作業場の様子
右下:「尖りおうこ」と呼ばれる農具を利用して背もたれに
座敷でも椅子でもくつろげるように工夫された囲炉裏端