
Embrace Island Time: A Taste of the Season, a Breath of Life息吹を感じ、旬を味わう島時間
April 28, 2025
島への移住
縁がつながり、島で出会う
瀬戸内海に浮かぶ小豆島。池田港から車で10分ほどの高台に向かう途中、なだらかな斜面には畑や民家が広がり、小さな実をつけ始めたオリーブの木々の間を海風が通り抜けます。この場所に片岡さん一家が移住してきたのは、10年前。島で出会いともに暮らし始めたご夫妻が、自分たちが思い描く暮らしを時間をかけて少しずつ形にしてきました。
夫の晋さんは小豆島に移住する前は、東京でサラリーマンをしていました。しかし自然に触れる仕事がしたいと地元である鎌倉で農業などに従事していたところ、小豆島でオリーブ栽培を体験するという農水省の企画をり、参加することに。しかし小豆島にいる間に東日本大震災が発生。それをきっかけに移を真剣に考えるようになり、家探しを開始したのだそうです。

農泊に使う2階の部屋からは瀬戸内海が一望できる
「もともと移住をしようと思っていたわけではないんです。もし震災がなければ小豆島にいなかったかもしれないし、その後の人生も今と同じにはならなかったかもしれない」と晋さん。
一方、妻であるれいこさんは栃木県の出身。れいこさんもまた、震災をきっかけに暮らしを見つめ直したそうで、地元を離れて世界各地を旅するなかで、小豆島を訪れました。旅の途中でふらりと寄ったこの島に滞在するうちに知り合いが増え、移住者の仲間のカフェ立ち上げを手伝うことに。
「人と人の縁で仕事を得て、最初は軽い気持ちで暮らし始めたんです。島には移住者同士のネットワークがあって、一緒にごはんを食べたり、困ったら助け合ったりできる。そういうのが心地よかったですね」と、当時を振り返ります。
そんな移住者の集まりで出会ったご夫妻は、住む家は自分たちで探したいと、気になる場所を細い道までくまなく歩き、空き家を探したと話します。
左:戦後すぐに建てられて増改築をした跡が残る家は、片岡夫妻の手によって多国籍の雰囲気漂う空間に変身。
中:2階のリノベーションもご夫妻で行った。太い梁が見えるように天井を剝ぐ作業は特に大変だったとか
右:自然栽培にこだわる晋さんのオリーブ農園。町から苗を購入して大事に育てた
「直接探してみようという直感で島を歩き回った」とれいこさん。時には近所の人に聞いたりしながら今の住居を見つけ、地域の人たちの協力のもと、持ち主との交渉もスムーズに進みました。決め手は2階からの景色。眼下に瀬戸内海が一望できる絶好の立地です。
日々の暮らしを営む上でご夫妻が大切にしているのは、自然に触れられる心地よい環境であること。住みながらリノベーションした家は、もともとある設えを残しつつも壁を漆喰で塗り、ふすまを張り替えました。また2階は大きな梁を現しにして天井を取り払い、壁を塗り替え、広々とした空間が実現。外にはこの家に決めた理由でもある美しい眺望が広がります。
「2階は宿として泊まっていただくことができます。裏の畑で採れた野菜をふんだんに使った食事をとり、自分で割った薪でお風呂を焚く。手間はかかるけど、その過程もまるごと楽しめるような体験ができますよ」とご夫妻。
その片岡家のすぐそばには、晋さんが育てるオリーブ農園があります。2年ものの苗木を仕入れて育ててきたオリーブは、すべて無農薬。「天敵であるゾウムシは薬剤で駆除するのではなく、手作業で取りのぞきます。これももちろん手間がかかりますが、この先も自然栽培にはこだわっていきたいですね」と晋さん。収穫したオリーブは新漬けやオイルなどに加工して、全国各地に出荷しているそうです。
れいこさんは結婚前から池田港の近くで「タネむすび堂」というカフェを切り盛りしており、こちらで提供するのはオーガニックを中心としたヴィーガン料理。使う食材は季節のもの、地元のものにこだわり、カフェのかたわらではナッツやドライフルーツなどを量り売りするなど、循環型の取り組みを実践しています。こちらのカフェも自分たちでリノベーションしたそうで、イベントやワークショップも行うなど、今では地域の拠点としても愛されています。

れいこさんが営む「タネむすび堂」の店内
左:「タネむすび堂」のエントランス。木々を抜けた先にカフェがある
中:ナッツやドライフルーツ、スパイスなどの量り売り。ゼロウェイストをめざし、常連客はリサイクル瓶持参で来店する
右:リノベした床の間。カラフルな壁紙に、ひょうたんのランプが映える
8歳になる息子さんも連れて、ここ2年ほどでスリランカやベトナム、タイ、パキスタン、イランなどを旅したご夫妻。そこで得た刺激を島に持ち帰り、発信することも楽しみの1つ。新旧を織り混ぜながら島で暮らし、さまざまな文化を軽やかに行き来する姿が、とても印象的でした。
ー2024年6月

ショップカードのデザインは、ご家族をイメージして版画作家がつくったオリジナル