あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

file-39 A dish of art that complements time and space時間と空間が引き立てる一皿の芸術

June 25, 2021

Azalée

眠っていた屋敷を美術館のような料理店に

坂出市新浜町の住宅街に、溶け込むように建つ、古い大きな屋敷がある。製塩業の豪商の邸宅であったこちらには、明治から昭和初期のものとされる「主屋」「新座敷」「表門」「板塀」「道具蔵」「植込枠石組」「土塀」がある。どれも威厳を感じさせるもので、国の登録有形文化財に登録されているのもうなずける。
 フランス料理店『アザレ』は、この屋敷の主屋部分を家主に借り、内装をリノベーションして店舗として活用している。聞けば、オーナー兼シェフの米田宏和さんがここを店舗にするまで、30年近く空き家の状態だったという。
 店舗として借りるにあたり、屋根瓦の葺き替えや床下・基礎は、家主が全て改修してくれた。退去後は元に戻す契約で、内装は米田さんに委ねてもらえたのだとか。

左:店舗入り口にはオブジェのような鉄の看板が。添えられているのはツツジの花。製作者は鉄の造形作家、石井章さん
右:登録有形文化財になっている、松の「植込枠石組」の通路奥には、最近描かれたばかりという、坂出市在住のアーティスト山口一郎さんの壁画が、まるで昔からそこにあったかのように馴染んでいる(写真:Fizm 藤岡 優)

左:豪商を感じさせる立派な「表門」。起り(むくり)と呼ばれる勾配のある柔らかい丸みを帯びた屋根は、低姿勢や丁寧さを表現していると言われ、商人や公家の家屋によく使われているのだそう
右:店舗として借りている「主屋」。真っ白なリネンの暖簾が清々しい

地中美術館の「クロード・モネ室」が好きだという米田さん。時が経つのも日常も忘れて過ごせる、美術館のような空間を目指した店舗は、至る所にその繊細な趣向が凝らされている。
「空間がいいと料理は更においしくなる。僕にとって、この家も庭の景色も、食器一つに至るまで全てが料理なんです」と米田さん。
 その言葉通り、店名の『アザレ』の語源であるツツジの花のモチーフが、店内のあちらこちに見え隠れしているのもまた、目を楽しませてくれている。
 またこちらの魅力の一つに、ツツジの美しい和風庭園がある。しかし、以前ディナーに来られた方から「せっかくの庭が夜だとよく見えないから、今度はランチに来ますね」と言われたそう。
 そこで、夜でも美しい庭が楽しめるようにと、アキリノ パートナーのしわく堂が、庭のライティング設計施工を請け負った。

左:板塀」に沿って続く石畳に、こっそり埋まった大理石のツツジの花。探して歩くのも楽しい
右:庭から眺めた「主屋」の様子。屋根は入母屋造(上半分が切妻屋根で下半分は寄棟屋根が結合したもの)になっていて、店舗入り口とはまた違った雰囲気だ。

左上:柔らかに光を照らし返す大理石の床が、洗練された高級感を醸し出す。空間プロデュースは齊藤正さん。美術館のような空間にというオーナーの依頼を実現させた
左下・右:障子の代わりに使われている透け素材の布張りの建具やガラス戸や、床の大理石などに散りばめられているツツジの花。見つけるとなんだか嬉しくなる

 草木を美しく見せるライトアップに、しわく堂がこだわったのは、葉や幹それぞれの持ち味を引き出せるように演出すること。
 照明実験を通して、丁寧に照度や色温度を調整し、配置する位置や高さ、室内からの見え方なども考慮。和風庭園ならではの風情ある優美さを追求した。これからはこの幻想的な景色を、日没後には楽しむことができる。
「ただ『お任せします』としか言ってないんですが、皆(職人)それぞれがここに合う最高のものを考えて作ってくれるんです」米田さんは満足そうに、そう話してくれた。
 瀬戸大橋線の高架下のすぐ側という立地にもかかわらず、静謐なこの空間は、とても心を穏やかにしてくれる。
 時間を忘れて、歴史ある和風建築と庭園、そして職人たちの最高の料理を味わいたい。
メイン写真/Fizm 藤岡 優

ー2021年6月

  

まるで絵画のような光の演出にうっとりする。ますます魅力的な和風庭園となった夜のアザレ (写真:Fizm 藤岡 優)

Azalée  HP

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