あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-60 Modernist architecture where you can experience a sense of unity with the sky空との一体感が味わえるモダニズム建築

November 04, 2022

そらとたべるthreee

皆が集まる楽しくておいしい空間

  

「そらとたべるtheee」は築50年ほどの住宅をリノベした蕎麦屋。多度津町青木から海岸寺まで続く県道216号線沿いにある。
 まさに空に向かうような坂道を車でぐんぐん走ると「そらとたべるthreee P」と書かれたイラスト入りの駐車場看板が目にとまる。
 車をそこに停め、木々に囲まれた木製の階段を下りていくと一面に広がる田園風景と讃岐の山々を額縁に収めたようなオブジェが私たちを迎えてくれた。その隣にひっそりと佇む赤レンガのモダンな家。髙家裕明さんと米田大祐さんの二人は「楽しいっておいしい」をコンセプトに令和元年5月、この場所で店をオープンした。
 

店までは駐車場から木製の階段を下りていく。すると見晴らしの良い高台に赤レンガの建物が現れる

髙家さんの義妹と米田さんが同級生で、歳は少し離れているが二人は昔からの気の合う友人。いつか自分たちで何かを始めたいと夢を語り合っていた。「自然とみんなが笑顔になる。そんな店を作りたかった」と話す米田さん。
 初めに米田さんが食肉の知識を学ぶために精肉店に転職。高家さんも蕎麦屋で修業を重ねて勤めていた会社を退職し、オリーブ牛のすきやきと手打ち蕎麦を提供する店を起業する決断をした。
「ここは、私の叔父が建てた家なんですよ」と教えてくれた髙家さん。「設計したのは建築家の吉村順三氏。東京で絨毯メーカーに勤めていた叔父が、皇居新宮の仕事を一緒に担当したことが縁で設計図を描いてくれたそう」「目の悪くなった伯母の為に、東京ではなく、この場所で建てたそうです」と話を続けた。
 日本のモダニズム建築を代表する建築家の中でも、住宅を数多く手掛けていた吉村順三。日常的に用いられてきた素材を使い、自然環境に適した居心地の良い住宅を設計してきたそうだ。

店内に一歩入ると窓一面に讃岐の山々と田園風景が広がる

 日本建築の伝統的な要素を取り入れ、かつモダンな建物は今でもファンが多く、「もしかしたら吉野順三氏の設計した家ですか?」と蕎麦を食べに来た客に聞かれたこともあるのだとか。
 パノラマの田園風景を望むことができる客席の大きなガラス引き戸は、吉村順三設計の特徴のひとつ。部屋の中と外をボーダーレスに繋ぎ、屋内にいても、まるでテラスで食事をしているような開放感がある。
 ただ実は、初めからここで店をする計画ではなかった。叔父夫婦が亡きあとあき家になり、数年前に髙家さんの両親が受け継ぎ、暮らしていたそうだ。二人が条件にあう店舗をいろいろと探していた時に、髙家さんの奥さんがふと「この家ですれば?」と提案。
 かつて、叔父夫婦が過ごしていた柔らかな日差しを全身で感じられる温かいリビング。ここに人が集い、楽しくおしゃべりしながら食事をする。二人にとって理想の場所が身近にあったのだ。

(左)50年前に設計されたとは思えない赤いレンガの壁とダウンライトが設置された木の天井
(右)米田さんがレンガの雰囲気に合わせて、木の板をブロック調に壁に貼りあわせた

「そんなに大きなリノベはしていないんですよ」と話す二人。台所だった部屋の壁を取り払い、厨房をオープンキッチンにし、レジを設置するカウンターはDIYで取り付けた。元々、広い台所だったので厨房機器もぎりぎり収まったそうだ。米田さんの親戚の大工さんにも手伝ってもらったが、できるだけ自分たちでリノベーションを行い、夢だった二人の店がようやく完成した。
「結構、おじいちゃんやおばあちゃんが来てくれるんです」と米田さんが言う通り、老若男女問わず、幅広い年齢層の人たちが訪れる。おいしい食事はもちろんのこと、田園風景が広がるロケーションと長居をしたくなる居心地の良い客席が、再び足を運ぶ要因なのだろう。
 愉快な二人の話と癒しを与えてくれる空間で“楽しくておいしい”時間を過ごし、夕暮れの店を後にした。

ー2022年11月

(左)threeeのeがひとつ多いのは米田さんのゲン担ぎ。なんでも3になると不思議と落ち着くのだとか
(右)店に飾られている家の設計図

そらとたべるthreee  HP

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