File-63 Kominka renovation accepting and enjoying as it is あるがままを受け入れて楽しむ古民家リノベ
December 23, 2022
古民家かふぇ がもう家
託された古民家の可能性から感じた、自分らしい活用法
File.62で紹介した、蔵の宿「がもう家」敷地内にある「古民家カフェ がもう家」は、大庄屋だった蒲生家屋敷の、江戸時代に建てられた母屋をリノベーションして、宿と共にオープンした。
子供がいなかった伯母に代わり引き継いだ店主の田村正太郎さんはいう。
「正直なところ、自分の仕事もあったし、母屋だけでなく蔵や広い庭もあるから管理も大変。もうこんな古くてボロい家、どうにもならないと思っていました」
解体も視野に入れ業者に見てもらったところ、「この建物はすごい。億出しても建たんやろう。つくろうと思っても、今ではもうつくれん」と驚かれたそう。古民家で見られる職人の技術や建物に使われる建材は、今では再現できないものや手に入らないものがほとんど。
長火鉢や暖炉もある広々とした店内。雰囲気にあった調度品を収集するのも楽しみになっているそう
左:店内には伯母が使っていた水屋箪笥やテーブル、ロッキングチェアなども残っている
右:アンティークなレジスターだが、オブジェとしてだけでなく実際に使っているもの
少しずつ片付けをしていくうちに、小さい頃から慣れ親しんだ懐かしい思い出があふれた。
コロナ禍で生活に制限がかかる中、これだけの建物と敷地があれば何でもできるのではと、田村さん自身の意識が変わったのだと話す。
田村さんがこだわったのは、あるものをできるだけ残して活かしていくということ。
間取りもほぼ変更がなかったので、着工から半年ほどで改装は完了。蔵に残っていたものなど、使えるものはあらゆるところで活用した。例えば天井照明などは、古い農具を使っている。
変えたのは、厨房と玄関、トイレ。玄関扉を広くし、店内は玄関口から中庭まで靴を脱がずに歩けるようにと、畳を剥がし土間床に。床面は砂利を混ぜた炭モルタルのプレートを敷いた。継ぎ目に、柔らかで融通のきく真鍮を流し込んでいるのが、金継ぎのような良いアクセントになっている。
店舗の片隅に置かれたショーケースには、この屋敷の歴史を物語る様々な遺物が飾られている
左:田村さん手製のおくどさん。最初は赤で塗装したのを黒に塗り替えるなど、試行錯誤してつくったそう。宇多津の古代米を使うなど、食材にはできるだけ地元のものを使う
右:トイレの天井には、かつてのトイレの戸を資材活用。取っ手が残っているのが面白い
田村さんのお気に入りの場所を聞くと、天井にわざと残した昔の配線と、中庭に立つ昔懐かしい木製電柱ですと笑う。
使用していないにも関わらず、昔の配線を残したのは、碍子(がいし)と呼ばれる、電線と建物との間を絶縁するために用いる器具が、今では珍しい磁器でできていたからだそう。
「実は、庭に電柱立てるのが夢だったんです。それも電灯付の木の電柱」と、少年のように目をキラキラとさせる。
「ここは母の生家。母の姉である伯母には子供がいなかったので、『正ちゃん、私に何かあった時は、この蒲生家のこと頼んだで』と、いつも言われていました」。
伯母が亡くなったのは、奇しくも田村さんの誕生日だったという。
カフェや宿に生まれ変わった屋敷を、がもう家と名付けたのは、伯母との約束を果たしたい思いからだろう。
店舗裏には広々とした中庭。田村さんお気に入りの電柱が、ノスタルジックな雰囲気を醸し出す
左:庭にあった瓦で田村さんが作ったというオブジェ
右:若者には珍しいであろう井戸の手押しポンプ。蓋には蔵にあった板を使用。「蒲生氏」の文字が見える
草葺の屋根に重ね葺きした銅板の緑青が、鈍色の瓦に美しく映える。長い歴史を重ねてきたその堂々とした佇まいの古民家は、150年の時を超えてもまだまだ現役だ。
ー2022年12月
店舗外観。30年前に張り替えたと思われる屋根の銅板。年月をかけて緑青を帯びることでその風格が増してゆくようだ
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