あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-08 A house, a whole, in a work.一棟まるごと芸術作品に

June 12, 2020

豆花

「驚きは感動を呼ぶ」

口に運べばすっと溶け、繊細で優しい甘さの和三盆は、香川の特産品である。菓子木型を使った和三盆や和菓子作りを体験できると、観光客にも人気の「豆花」。主宰の上原あゆみさんのお父様、市原吉博さんは、干菓子や練り切りに使う菓子木型を作る四国・九州で唯一の職人である。
「地元の小学生に木型を使った和菓子作りを手軽に体験してほしい」。そんな思いを胸に、上原さんがワークショップを開くべく、およそ築七十年の空き家の改築を決めたのは、二〇〇九年のこと。担当したのは、現代美術から舞台美術などを手がける、美術家のカミイケタクヤさん。知人のコーヒー店に置かれていたカミイケさんの棚に一目惚れした上原さんは、カミイケさんの工房を訪ねた。その世界観に魅了され、改築のすべてを託そう、と決めた。

訪れた人に驚きを与える、唯一無二なアートな空間。テーブルは手作り体験に使う。

上原さんは観光地として有名な「直島の家プロジェクト」のスタッフでもある経験から、空き家を一軒丸々作品にして欲しいと考えて、「自由に楽しんでもらえる場所にしてください」と依頼した。
 およそ一ヶ月間の施工中、上原さんは現場を一度も見に行かなかったそうだ。「途中で口を出したくなかったんですよ。結果、思い切った施工をしてもらえてよかったです」と満足の様子。
 高松市中心街からほど近い住宅地にある一軒家が「豆花」。玄関の暖簾をくぐった瞬間に、外観からは想像もつかないアートな空間が出現する。
 ベニヤを貼った上から漆喰を塗った壁には、扇風機、はしご、ガスコンロのカバーなどの廃材が貼り付けられている。また、あらゆるところに菓子木型を飾った棚がある。丸い窓のような廃材は覗き窓のように使われ、「潜水艦の中にいるみたいという方もいるんですよ」と上原さん。

左:二階には家をテーマにした作品が並べられている。
右:追加した小部屋はまるで展示スペースのよう。並べられた木型は練りきり菓子用など、すべて現役で使用している。

「子どもたちや、ここを訪れてくれる方みんなに感動を伝えたいんです。この空間を見た時の驚きや、和菓子作りを体験したことが感動に繋がればいいなと」
 施工前は一階、二階ともにワンルームの間取り。一階のみ小さな部屋を追加した。中にはテーブルと棚、そして棚の上には菓子木型がぎっしり並べられている。「飾っているのは、全部現役で使っている型です」
 二階はテーブル席。その奥は家をテーマにした作品が並ぶ。
 カミイケタクヤさんは、「イメージは木型の小屋でした。白い色は和三盆糖を表現しています。あとは訪れる人にいかに楽しんでもらえるかを考えて制作しました」と答えてくれた。
 手作り体験のコースの後は、上原さんが和三盆に合う抹茶を点ててくれる。ゆっくりと口に含めば、和と一見ミスマッチなアート空間が、不思議と落ち着くことに改めて気が付く。
ー2020年6月

香川の名産、和三盆糖を木型にきゅっと詰めて抜いた、美しい干菓子「和三盆」。
縁起物や季節のモチーフをはじめ動物など楽しい木型があり、選ぶのに迷うほど。
豆花 HP

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