あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-53 A blissful time to immerse yourself in the panoramic view of Setouchi瀬戸内のパノラマの絶景に浸る、至福の時間

March 18, 2022

栗林山荘

ロケーションを味方につけた憩いのスポット

高松市街地から栗林トンネルに向かって「百舌坂」を登る。作家菊池寛が百舌狩りを楽しんだという逸話にちなんで名付けられたと言われる名所だ。
 紫雲山から峰山へと続く緑豊かなこの場所は、瀬戸内海を借景に高松市の街並みが見渡せ、春には桜、秋は紅葉など季節の機微を感じられる保養地として広く県民に活用されている。
 その百舌坂から峰山を望むと『栗林山荘』と書かれた看板に目が止まる。
 一九七二年創業。国民宿舎でその名を知られてきたが、現在は内装をリノベーションし、瀬戸内海の絶景スポットを市民や多くの人に楽しんでもらえる場所として、リニューアルされた。

左:昔から変わらぬ佇まいの正面玄関(提供:栗林山荘)
右:海まで見渡せる絶景スポットが優雅に楽しめる広々としたカウンター

左:リニューアルされ喫茶室に
右:板長特製の「だし巻き揚げサンド」は週3回提供される人気商品(提供:栗林山荘)

当初は継ぐ気がなかった娘の松原安郁子さんと夫の正弥さん。他界した父に代わり、継ぐのであれば宿泊だけではなく、もっとこの場所が活かせるおもしろいことがしたいと思ったという。
 本来、宿泊客しか利用できなかったロビーを、地元の人がドライブ途中などに気軽に立ち寄れる喫茶店として、二〇二〇年六月にオープン。峰山の北側に広がる見晴らしの良いロケーションが存分に楽しめるよう、窓いっぱいにカウンター席を設けた。内装は県庁東館をイメージ。天井に並んで取り付けられている額縁は、照明を外した際にできた穴を補ったのだとか。絵画のコレクターだった祖父が残した猪熊画伯の作品もまたこの空間を引き立てている。
 十一月には物置だった倉庫を、レンタルスペースとして誰でも使えるよう開放した。その名も『絶景劇場』。こちらの施工、空間デザインを請け負った、アキリノパートナー「しわく堂」に名前をつけてもらったのだとか。

左:絶景劇場の入口
右:サーカスや瀬戸内のものをイメージして作ってもらったというスペースを仕切るためのカーテン

瀬戸内サーカスの公演。その他にも様々なイベントが開催されている(提供:栗林山荘)

 施工前から、瀬戸内サーカスファクトリーの公演を予定していたので、サーカスをイメージした改装をオーダーしたという。
 重い非常扉を開けた通路の先に見えるのは、おしゃれなアイアンフェンス付きのアンティークな扉。緞帳(どんちょう)をイメージした黒いカーテンの向こうには、幻想的な空間が広がっていた。
 コンクリートを剥き出しにした無機質な広がりの中に、色とりどりの透明感のあるカーテンで、円を描くように室内を三つに分けている。丸く区切ることで、一つひとつに自由な余白と広がりを持たせたのは、借りた人が自由に形を変えて使えるようにと考えたから。また床で体操もできるよう、床全面にフロアシートを貼っているので、今は毎週火曜日に、瀬戸内サーカスファクトリーの体操教室としても使われている。
 この空間の圧倒的な開放感は、南北それぞれの壁全面に設けられた掃き出し窓によるもの。

左:絶景食堂スペース。襖を貼ったり窓枠をペイントするなど、こちらはセルフリフォームで仕上げられた
右:食堂から喫茶室を見た様子。左手に見えているのは『レンタルBOX』。ハンドメイドなどの委託販売をしている

 北面は空と海が見渡せ、南面は光とともに山の装いが目に映る。しわく堂が手がけた開放的かつ前衛的な仕上がりに、絶景劇場と名付けたのもうなずける。
 二〇二一年三月には喫茶室の西側で『絶景食堂』も始めた。ロケーションだけでなく、和食専門の板長の会席料理が、定食メニューとして手頃な価格で楽しめるのも魅力の一つ。
「継いでみて思ったのは、続けていくことの大切さ。祖父や父が守ってきた場所を、形を変えながらも建物の寿命が続く限り残していきたいです」と、話す安郁子さん。自分自身も楽しみながら新しいアイデアで、市民の人が気軽に立ち寄れる憩いの場所づくりをしている。

ー2022年3月

左:国民宿舎だった当時の百舌坂から見た栗林山荘外観。現在も変わらない姿を見せてくれている
右:かつてのロビーの様子(提供:栗林山荘)

栗林山荘  HP

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