あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-48 The inn where you can feel the essence of artisan 職人たちが生み出す技の粋を感じる宿

November 05, 2021

古民家はちどり

知識・技術・経験の融合がつくりだすもの

「樹工舎」が一年をかけてリノベーションを施してきた「古民家はちどり」が完成したと聞き、訪れた。そこは、のどかな里山風景が広がるさぬき市大川町。辺りはとても静かで、時折草木が風に揺らぐ音や、鳥のさえずりが聞こえてくる。
 木々に囲まれるように佇む築百年の古民家。「樹工舎」代表の矢野さんは、この家に出会ったとき、自然の循環の中で紡がれてきた素朴な生活風景が目に浮かび、魅力を感じたという。 
 これまで職人が持てる技術を最大限に発揮することができる家づくりをしてきた「樹工舎」。古民家を改修するにあたり、「樹工舎だからできること、貢献できることしたい」という想いのもと、古民家のリノベーション「ハチドリproject」がスタートした。

まずは玄関へ続くアプローチに足が止まる。木で組まれた設えはさながら舞台のようで、清々しい木の香りに包まれ、柔らかな光が降り注いでいる。「入口はその場所のファーストインプレッションだから」と、訪れる誰もがこれから過ごす空間にワクワクするような仕掛けは室内に入る前から始まっていて、軒から曲線を描く仕切りには左官の高度な技術も垣間見ることができる。
「古民家はちどり」には、木、土、和紙の素材をテーマにした部屋があり、それぞれの職人技を肌で感じることができる。玄関から土間、そして間仕切りを取り払って実現した大空間は、左官仕上げした壁や銅板で覆われた柱、そして木組の天井など素材の妙が光るスペース。素材やデザインの味わいだけでなく、やわらかさやぬくもりが五感を通して伝わり、疲れた体が癒されるような居心地の良さがある。

左:奥に見えるのは、玄関から土間でつづくキッチン
右:全面を左官仕上げした一室は、かつて農作業の合間に休憩場所として使われていた部屋。
土という素材と職人技を通して、当時の生活と繋がっているかのよう

 また、和紙職人のハタノワタルさんがデザイン、施工した空間は、色や風合いによって和紙のさまざまな表情を見せてくれる。古民家の趣きと相まって、噛めば噛むほど味わいが広がるような奥深さがある。「職人さんが想いを込めて真剣に向き合ってできたものだから、心地良さが溢れているように思う」と矢野さんは話す。
 家づくりに関わる職人一人ひとりの技や感性によって、建物の魅力が最大限に引き出された古民家リノベーション。それは、建物のみの魅力にとどまらず、かねてから自然と共存してきた日本人の日々の暮らしや、その営みの中から生まれた素材や技の素晴らしさを気付かせてくれる。
 こうした感動や気づきを滞在の中で感じることができる「古民家はちどり」。現在は、アーティストや作家のイベント会場として活用しており、近々一棟貸しの宿としてもオープン予定だ。

ー2021年11月

和紙の部屋。壁、床の間、襖にも和紙が施されており、洗練された技に背筋が伸びる

左:以前から植えられていた紅葉をはじめ、庭の木々が空間に彩りを添える 
右:サウナも完備されており、誰もが楽しめるように温度調整が簡単な薪を使用している

樹工舎HP

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