あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-57 An inn where you can enjoy Setouchi as if you were living there暮らすように瀬戸内を満喫する宿

August 05, 2022

北浜住吉

港町の利点を活かし、拠点を定めて旅をする

「北浜アリー」といえば、高松港近くにあるレトロな倉庫街を、趣を残しつつモダンで個性的な雑貨屋や飲食店に改装した、知名度の高い観光スポットだ。そのノスタルジックな雰囲気は、若者を中心に人気が集まっている。
 心地よい海風に背を押され、その倉庫街の裏手にまわってみると、古い町家風の長屋がひっそりと建っているのが見える。玄関先にちょこんと付いた丸い外灯には「住吉」の文字。
 8年前にこの長屋をリノベーションし、一棟貸の宿として生まれ変わらせたのは、瀬戸内ステイの井上雅子さん。解体を待つばかりだった倉庫街を、北浜アリーという複合型商業施設として見事に復興させた立役者だ。
 北浜町は、井上さんの生まれ育った、思い出が詰まった場所でもある。

北浜アリーの倉庫街から一歩脇に入れば静かな住宅街

左:外観はほとんどそのままの状態だそう
右:玄関を入ってすぐ右手にある小窓。繊細な細工に思わず見とれる

かつて船が活躍していた時代は、ここで働く人も多く、滑車や荷車を引いた元気な人夫さん達で活気にあふれていたそう。
 この「北浜住吉」は、空き家になって放置されていたのを、何をするのでもなく借りたのだという。倉庫と同じ、昭和初期に建てられたと思われる趣のある木の格子窓や、昔ながらのつくりが気に入った。宿にしようと思いついたのは、その後だった。
「北浜アリーにもっといろんな見どころを増やしたいな、という気持ちもありました。ちょうどその頃、京都の古い町家を一棟貸しにした話を聞き、現地まで見に行ったんです。旅館でもホテルでもなく、家族や友人と自分達の家のようにくつろげて、そこを拠点に観光する。そんな宿も面白いなと気づきがありました」。
 オープンしたものの、最初の一年は誰も来なかったという。
 しかし二年目になった頃、瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、日本の文化が好きな海外からの旅行客の目に留まった。

左:玄関ホール
右:年期の入ったタンスの建具は重厚さを醸す色合いに。格子戸の掃き出し窓は、断熱のため内側に新しく建具を入れた

続きの二間。大小合わせて畳の間が4部屋ある

 アートや建築が観光の目玉になったことで、住吉は日本らしさを満喫できると話題に。船で行き来するにしても立地もよく、一棟貸しにすることでファミリーで来ることの多い外国の方にとってはベストマッチだった。
 改装にあたって、井上さんがこだわったのは、できるだけ建てられた当時の状態に戻すこと。以前住んでいた方が機能性から、建具をサッシに変え、中庭には倉庫を建てていたのだとか。流石にキッチンやトイレ、お風呂などの水回りは新しいものに変えたが、古民家に似合わないサッシやドアは建具を探して取り付けたことで、中庭もかつての様相を取り戻した。
「庭があると、部屋の中に柔らかな光が取れて落ち着くでしょ」と、微笑む井上さん。住まいに対する思いが見て取れる。
「外国の方は家族で一ヶ月とか旅行に行ったりするんです。住吉を一棟貸しにしたことで、そうしたニーズに気づけました」

中庭に沿ってL字に廊下が付いている。灯籠は元からあったもの

 長期滞在してもらうことで、それぞれの暮らしや住まいに対する考え方や違いが分かって面白いという。
「北浜アリーで住む」という発想の住吉は、観光を支える一翼となって、意外な異文化交流の場としても発展していた。

ー2022年8月

左:常備されている浴衣は、外国の方に大人気。どこで売っているのか聞かれることもあるそう
右:庭を眺めながらゆっくり身支度ができそうなドレッサールーム

北浜住吉  HP

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