あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-69 A handmade community where books and people come together本と人が集う手づくりのコミュニティ

March 03, 2025

うみの図書館

古民家リノベで海の町に図書館をつくる

かつては日本有数の遠洋漁業の港町として栄えたという、津田町。香川県の東部に位置し、白砂の浜辺に1kmにわたって続く松の林で有名な「津田の松原」やドルフィンセンターなどもあり、瀬戸内海の自然が堪能できる美しい場所です。
 その沿岸に建ち並ぶ古い町並みの一角に、宿泊もできる私設図書館「うみの図書館」があります。建物は遠洋漁業で財を築いた元船主の家屋を借り、セルフリノベーションを施して、2023年5月にオープンしました。
 玄関の扉を開ければ青い土間に白い砂利石。その砂利石は室内の床にも遠慮なく撒かれています。
「民家なので、いかに家っぽさを払拭するかが鍵でした。図書館の部分は土足でOKなんですが、高い上がり框を見て思わず靴を脱いでしまう方が多くて。それで砂利を敷いてみました」

海まで徒歩1分もかからない。津田湾が一望できる絶景ロケーション

そう話をしてくれた発起人の黒川慎一朗さんは、この町の出身。大阪の大学では主に都市計画について学びました。コロナ禍で大学に通えない日々が続くなか、卒業研究の一環で地元の町について考える機会を得たと話します。地域活性化のためには何が必要なのか、どんな店があれば良いのかを調査していくうちに、津田の町には図書館が足りていないと感じました。たまたま築60年の古民家が解体されることを知り、その家主に話を聞きに行ったことが、夢を実現させる第一歩となりました。
 改修にあたり、黒川さんが特にこだわったのは本棚でした。壁を取り除き、格子状に組んだ木枠で本棚と壁の役割りを持たせつつ、隙間を設けることで隣の部屋まで見渡せるようにしました。畳を外し、床を地面まで掘り下げたので天井高が高くなり、本棚の圧迫感も感じさせません。

早くからSNSで図書館の構想を発信したことで、地元だけでなく全国からも本の寄贈やボランティアを募ることができました。リノベを始めた当初は黒川さんを含めて4人だけでしたが、進めていくうちにご近所の方や、口コミで聞きつけた方が手伝いに来てくれたりと、いつの間にかセルフリノベがコミュニケーションのきっかけになっていました。

左:線で面を作ることで、古民家ならではの不規則な形状にあったリノベーションができたそう
右:見えている石は、なんと柱を支えている束石。床下を剥ぎ、地面をコンクリート土間にした

次世代に繋ぐ新しい図書館の形を考える

四角く開いた中庭の空から、暖かな日差しが室内を明るく照らします。日本庭園らしい敷き詰められた飛石や、石灯篭。はらはらと地面に色を添えているのは山茶花でしょうか。うみの図書館は、この趣のある中庭を中心に、北側は図書館、南側は宿泊施設に分かれています。
 中庭を宿泊客に楽しんでもらうために考えたのは、回廊を宿泊部屋に取り込むことでした。そのために回廊を途中で中断させ、新しい廊下を納戸の中につくり直しました。元は襖で仕切り2部屋だった奥の和室を、掃き出し窓の区切りに合わせて、1人部屋、2人部屋、4人部屋と3つの部屋に分けました。
 青い壁は部屋によって少しずつ色を変え、まるで海の色のように変化に富んでいます。壁は珪藻土をローラーで塗りました。コテよりもずっと簡単なので、壁塗りが初めての方にもオススメなのだとか。

中庭の様子。庭に面して造られた回廊といい、贅を尽くして建てられたことがわかる

左:2人で泊まれる西側の角部屋。元縁側だった仕切り部分が見て取れる
右:東の角にある4人部屋。あと2つのベッドは押入れの中に。天井を抜いて梁を見せているので部屋が広く感じる

「ここの利用者層ですが、図書館部分だと小さなお子さんを連れて絵本を借りに来られる方とか小学生がグループで来たり、年配の方も来られるので、割と年齢層の幅が広いと思います。宿泊部分は本好きの30代、40代くらいの方が多い気がします。宿泊のお客様は、0時まで図書室を利用できるので、ゆっくり本を選ぶことができます」。
 うみの図書館にある本は、「海にまつわる本」か「流れ着いてきた本」。そのほとんどが寄贈という形でここに辿り着いたものです。利用の仕組みもユニークなのが、このうみの図書館。貸出期間は2年で、貸出返却に至っては、この活動に共感してくれた全国各地の飲食店やゲストハウス等の連携拠点で借りたり返したりすることができます。今後も拠点はまだまだ増えていきそうです。「うみの図書館にある本は、捨てられたり雑に扱われるのが嫌だという思いで持ち寄られたもの。流れ着いた先の展開として、いつか本の役割を終えた後、捨てる以外の選択肢をどう作るか、それが『漂流文庫』を扱う私たちのミッションだとも思っています」

うみの図書館
香川県さぬき市津田町津田1418
※記事内容は2024年3月のものです。詳細は公式サイト等でご確認ください。

ー2024年3月

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