
File-74 Nature’s Gifts and Heartful Moments The Gifts of Nature and Time to Enrich the Soul自然の恵みと、心豊かな時間
August 20, 2025
里山の暮らし
里山の居心地に魅了されて
三豊市財田町、山間の道の駅「たからだの里さいた」から、さらに続くなだらかな上り坂を行くと、やがて視界が開けます。
ゆるく段々になったいくつもの田畑や遠くの山々、瀬戸内海に続く平野まで、ぐるりと見渡せる見晴らしのよいロケーション。田畑に囲まれるように、ぽつん、ぽつんと屋根が見えます。そのうちの一軒が、今回ご紹介する香島さん宅です。横浜から移り住んだのは約2年前。息子さんの中学入学に合わせて家族3人+猫2匹で引っ越しました。
きっかけは、東日本大震災で夫の栄一さんが帰宅困難者になったこと。その後、コロナ禍を経て人とのつながりや災害時の生活など、大きな街で暮らすことへの不安が積み重なりました。また、移住のことを考え始めた頃に農学校へ通い、そこでふっかふかの土を体験したことも心が動かされた理由だと言います。
普段は何の不便もない都会での生活、ふと我に返ってまわりを見れば、灰色のコンクリートだらけ。土の上で気持ちよく暮らしたい、自然と触れ合いながらその恵みを生活に取り入れたい、そんな思いがどんどん強くなっていきました。
移住相談窓口などで情報収集する中、香川県主催の「就農ツアー」で財田町を訪れ、「人の温かさと豊かな自然に魅了されて」移住先を財田町に決定しました。
ツアー中、財田町のNPOが行なっている「財TURN*」のイベントで具体的なイメージを持つこともできたそう。物件探しは、まず栄一さんが行いましたが「どこも一長一短あって決めるのが難しくて。
正直、全然わからなくなってきました」。なんとか町外含め5~6件に絞り、改めて家族3人で内覧して最後に出会ったのが今の住まい。真己子さんの「ここだ!」という直感を信じ、翌日には購入を決めたそう。
それからのリノベーションは、元家主さんが紹介してくれた大工さんといろいろ相談しながら、真己子さんもお気に入りの素材を探したりと積極的に関わりました。完成するまでは、財田町の移住者向け宿泊施設で仮住まい。
そこでも人の良さ、温かさに触れました。
とれたての野菜などをどっさりいただいたり、なんでも相談に乗ってもらったり。家が完成して引っ越してからも、近所の人から畑のことなどを丁寧に教えてもらっています。

山や田畑に囲まれた香島邸(写真中央)


上:薪ストーブはほぼリノベを終えてから設置したのでこの冬から稼働
下:左官さんが草木を使って壁に柄を作ってくれた
こつこつ続けていく楽しみ
母屋のリノベには自然素材をふんだんに使い、もともと備えられていた美しい建具はそのまま活かしました。そこへ新たに薪ストーブを据え、落ち着きのある生活空間が完成。冬にはストーブの炎が趣を添え、夏には開放した窓から山々や青空、田畑がくっきりと見えます。
リビングの隣のキッチンは、真己子さんのこだわりがいっぱい詰まったスペース。そこから、自然の恵みを活かして蜂蜜や味噌、柿酢、梅干しなどが次々と生まれています。さらに醤油や麹について教えてくれるコミュニティに参加したり、香川ならではの漆器や保多織にも興味津々で、里山での生活を存分に楽しんでいるご様子。
建物のまわりでも、いろいろな楽しみが進みつつあります。
ニホンミツバチの巣箱、干し柿、野菜、デコポンなどの果物。また雨水利用やコンポスト、太陽熱温水器を備え、自然を存分に利用させてもらう仕組みも出来上がりました。

真己子さんがお気に入りのものを集め、自ら使いやすいようにアイデアを形にした

もうこれだけの自然の恵みが。野菜や果物が育てば、これからもっともっと増えていく
敷地内には母屋のほかに、煙草を乾燥するために使われていたベーハ小屋と、さらにもう一棟が並んでいます。
母屋以外はまだ手を入れておらず倉庫等として活用。栄一さんはこれまでDIYとはほぼ無縁の生活で、「どっちかというと苦手なほうだったけど、ここではできないと困ることもある」と一念発起、職業訓練校にも通い、いつの間にかいろいろ作業できるようになっていたそう。母屋以外の建物やまわりの田畑も活かし、里山生活をさらに充実させる日は遠くないようです。
「タイミングも良かったし、ほんとにここまで順調にきました」と栄一さんが言うと、「全然順調じゃなかったじゃない」と真己子さんは笑います。
「確かに小さな問題はいろいろありますけど、感覚的には何もかもうまくいってるんですよ」栄一さんは続けます。「たぶん好きなことができてるから。ストレスなし。充実感だけです」。陽のあたる庭で、雲がどんどん流れていく空を見上げる姿からは、このお気に入りの住まいにこつこつ手を入れていくことを、本当に楽しみにしている気持ちが伺えました。
2025年1月

土づくりからやっていく、憧れの畑が現実に。徐々に広げていくとともに果樹や米も

右:樋を伝ってたまる雨水を有効利用
左:師匠に教わりながらミツバチの巣箱を設置。寒さに耐えられるよう覆いをする予定

右:「 今年はちょっと失敗」と言いつつ試行錯誤も楽しみのひとつ
左:ご近所さんから解体した木材などをもらえる。薪づくりワークショップにも参加して仲間の輪が広がっている