あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

Cherishing the rest of his life, spending weekends at his childhood home余生を慈しむ、生家での週末暮らし

March 28, 2025

二拠点生活

古き良きものを残す選択

 観音寺市大野原町、昔ながらの家々が佇む一角に、ひときわ目を引く門扉が現れます。
西讃の霊峰・雲辺寺山を望むその家は三好宏さんの別邸。それぞれ築50年超の母屋と築65年超の蔵を改装した、大人のための週末の住まいです。
 昔ながらの日本家屋を一転、カントリー調にフルリノベーションした母屋は10年ほど前に完成。そしてこの度、蔵のリノベーションも完了しました。
 週の半分は高松市内のマンションで暮らす三好さん。あるとき、ポストに冊子『アキリノPAPER』が投函されていたのをきっかけに、20年ほど空いたままになっていた蔵の改修に着手しました。アキリノを通じて数名の建築家とアイデアを交わす中で 「古いものに対する感性が合っていた」と、設計士の大野晃貴彦さんに依頼することを決めました。

大野さんがどこからか見つけてきたという黒い門扉がアクセントに。
敷石や右手奥のオブジェに使っているのも解体する民家から取り寄せたという礎石

「この蔵ができたのが1949年。祖父や父を中心に近所の人も寄り集まって造ったと聞いています。当時は、大きな作業はそうやって隣近所助け合って互助的にやっていたんですね」。
 自らの生家であると共に、地域の人にとっても思い入れのある蔵。どうにかいい形で残していきたい 、と考えていた三好さんにとって 「いつか」と描いていた夢が実現に向けて動き始めました。
 暮らしの場として改修した母屋に対し、かねてより蔵は「趣味の空間にしたい」と考えていた三好さん。長い軒先を活かした開放感のあるエントランス、ミニキッチンの新設、天井の一部を吹き抜けとし、2階には寝泊まりできるスペースをつくること…。自身で思い描いていた空間構成はほぼそのまま採用し、設計士からは元々の構造や素材感を活かすための、より具体的なプランが加わりました。

左:気分に合わせてお気に入りのレコードをチョイス 
中:設計士・大野さんの遊び心が詰まったミニキッチン 
右:「飲むと帰れなくなる奴もいるから」と設けたという寝床。新たに採光用のスリット窓を設けた

大きなセンターテーブルは設計士のアイデア。「2人で一緒に大型ホームセンターに行って
銘木を見繕いました」。ミニキッチンの和箪笥やシンク代わりの角型植木鉢、エントランスに敷いた瓦なども同じく設計士・大野さんからの提案です。
 レコードが心地よい音楽を奏でる蔵内。壁面には若き日のスナップや航空チケットなど、各国を旅してきた三好さんの愛すべきコレクションが思い出を物語っています。新しくて扱いやすいものは、ここにはないかもしれません。しかし対照的に、年月を経たもののみが生み出す温もりに、身体がゆったりと包み込まれていきます。空間とインテリア、一つひとつの物語が時代も国も超えてこの蔵でクロスオーバーし、静かに熟成されているかのようです。時には旧友たちとここで集まり、気兼ねないひとときを過ごすこともあるという三好さん。しかし、ほとんどは一人で過ごしている、というのにも納得です。

高松市街のマンションと観音寺市の生家。二拠点での暮らしが「いいバランス」だと三好さんは語ります。「ふたつ場所があると、二倍生きているようで」。50歳を目前に大病を患い、人生の残り時間を意識せざるを得なくなったときから、「“ほんまもん”のことに時間を使わないといけない」と感じるようになったといいます。土いじりや薪割りなど、自然のサイクルの中で身体を動かすこと、素材や音楽の本質的な美しさを愛でること。市街地にしかない交友関係や利便性も今は大切ですが、この生家にしかない時間の流れもまた、三好さんにとってはかけがえのないものです。
 母屋に大きく設けた窓の向こうには、蔵の軒先が覗いています。家族が集う暮らしの場と、一人静かに趣味に没頭する場。両者は敷石の庭を挟み、ほどよい距離感で共存しています。少し離れたところにある納屋は、DIYや畑仕事の作業場として使用。その隣のささやかな家庭菜園には、実をつけた果樹や野菜が思い思いに育っています。

母屋の壁面はさながらミニギャラリー。かつてこの家で
使っていたという水屋箪笥(みずやだんす)を飾り棚として使っている

左:リビ ング 、 ウッド デッキ 、 敷石の中庭…と広がりのある空間。猫にも心地よい
中:冬場に備えての薪割りは、今やすっかり週末の日課となった
右:下屋にさりげなく飾られている古道具

「将来この家をどうするかは、まだ考えていないけれど」と呟きながらも、次の冬に備えての薪割りや納屋の改修に勤しむ三好さん。時折帰ってくる息子や娘たち家族にとってもここが良い場所であり続けるように、と週末ごとに手入れの手間暇を惜しみません。

ー2024年4月

  • 蔵と母屋をつなぐ中庭もリノベーション。 石を敷き詰めすっきりとした空間に

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