あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-10 A ristorante in the twinkle sunlight through leaves木洩れ日のリストランテ

June 26, 2020

リストランテ hiruno

峰山でゆったりと過ごす時間

高松に住んでいる者にとって峰山とはどんなところだろう。瀬戸内海や讃岐山脈から望む高松は限りなく真っ平で、ギュッと家々やビルが集まっているように見える。その中にもこもこと見える緑の塊が峰山だ。市街地と島々を一望できる絶景スポットだということは知っていても、案外行く機会は少ないかもしれない。讃岐の山らしくこぢんまりとしていて、車なら山上まであっという間だ。山上付近は、穏やかな時間の流れる住宅街になっている。道端には紫陽花が満開だ。ここに、リストランテhirunoがある。アプローチにはくぬぎの大樹が木洩れ日を落とし、心地よさそうなウッドデッキが桟橋のように伸びている。築四〇年以上になるという瀟洒な館は、喫茶店として建てられた。飲食店などを経た後は、十年間ほど空いたまま、半ば廃墟のようになって忘れ去られていた。

写真右の白い扉は、工事の際に見つかった昔の雨戸。扉を開けると毎日のメニューが書かれている

数年前、hirunoオーナーの大芝可愛さんは自らの店を持つべく、理想の土地を求めて市内を探し歩いていた。当初は海辺で店を開こうと思っていたのだそう。非日常的な空間でゆったりと食事を楽しみ、心身を癒す時間を過ごしてもらえれば、との想いがあった。リストランテ、すなわちrestaurantという言葉の語源をたどれば、「回復する食事」に行き着くという。地元の食材を扱い、健康によい料理なのは当然のこと。日々を忘れて、身体をゆるめるような場所にしたい―…。そんな店の候補地としてこの館を薦めたのは、建築家・長田慶太さんであった。大芝さんが土地を探しているちょうどその頃、長田さんは父の遺作であるこの館を手元に買い戻したところだった。緑にあふれた峰山は、海辺ではなかったけれども理想的な場所だと大芝さんには感じられた。
改修にあたっては、できるだけ元の状態から手を加えすぎないように、ということが意識された。

左:雑木林や壁の蔦に、薄いグリーンが調和する
  右:ところどころ「外」の混じる三和土。草も生えている

 傷んでいた建具はデザインそのままに作り直し、当初の色を再現した。格子状の天井下地はそのまま見せることにした。店の真ん中には年季の入った艶やかな柱。この柱だけは、塗り替えられることも取り払われることもなく、建てられた当時のままだ。シンボリックな柱を取り囲むように丸テーブルが配された。テーブル類は、「大きな食卓っていいよね」との大芝さんの言葉を受けて、長田さんがデザインしたオリジナル。デッキまで伸びるように続ていて、全てをつなげることもできる。hirunoは、幼い頃読んだ絵本の中の森の小屋みたいだ。長田さんは、自然が中に入り込むような建築を数多く手がけてきた。「大芝さんとの出会いをきっかけに、父のつくった場所を生き返らせることができた。2人で始めたことが、3人になり、4人になり…と、ここを訪れる人も含めた〝つながり〟がこれからも広く長く続いていきそうな気配があること。それだけで嬉しいんです」

ー2020年6月

リストランテ hiruno Tel.087-837-8250

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