パートナーインタビュー
町に息吹を。伝統集落の再生を目指して
菅組
日本のウユニ湖とも称される父母ヶ浜。菅組はこの美しい海浜と果樹園が広がる山々に囲まれた仁尾町で、100年以上前に創業しました。そして世界がこの町の美しさを知るずいぶん前から、景観を守るための取り組みを地道に積み重ね、その姿勢は今も変わることはありません。
菅組の仕事は「風景をつくる」こと。家を建てることや建て替えることはその1軒だけのことではなく、町並みの一つをつくることであると考えています。そのため年月が経った建築物でも、昔の風格は残したまま快適に住み続けたいというお客様に対しては、できるだけその思いをかなえられるよう、リフォームやリノベーションを手がける専門の部署があります。
その責任者を務める橋本真治さんは、自身も一級建築士や一級建築施工管理技士の資格を持ちながら、営業職として主にお客様とのやりとりをしています。「私たちの仕事でまず大切なのは、お客様とのやり取りや現地での調査で、リフォーム価値を見極めること」と橋本さん。建物がリフォームに耐えられるものであるか、価値を残したままリフォームできるか、予想以上に傷んでいないかなどの確認をした後、設計担当や工事担当とチームを組んで作業に入ります。リフォームやリノベーションが新築よりも困難な場合があるといわれる理由は、目に見えない部分に傷みがあることが多いから。だからこそ、最初の調査や判断が重要なのです。さらに、残したい部分をどう保存すればお客様の思いを大切にできるかなど「建物への愛着」にも思いをめぐらせることも、リフォームやリノベーションでは大切だといいます。住宅のみならず、店舗や公共的な施設でもそれは同じ。これまでの歴史とこれからの未来を考え、最善の方法で改修を進めていくのだそうです。
現在、菅組は仁尾町内で「仁尾縁(にお よすが)」という自社のプロジェクトを進めています。その第一弾となるのが、仁尾町の昔ながらの町並みの中にある建物を、一棟貸しの宿泊施設「多喜屋(たきや)」へリノベーションする取り組みです。これまでも古く価値ある建物の保存を進めてきましたが、「受け身では自分たちが残したい建物が残らない」というジレンマがあったと、社長の菅徹夫さんは言います。そのために伝統構法で建てられた歴史ある建物を自社で借りて、どういう利用方法があるのかを模索した結果、満を持して「仁尾縁」をスタートさせました。
「多喜屋」のリノベーションにおいては、かつて荒物屋だった建物のなまこ壁や瓦を残し、屋根にはこんぴら船を模した帆立瓦を設置しました。また屋内に入ると、玄関土間にはかつてなまこ壁に使われていた平瓦が敷かれ、2階に上がるとどっしりとした太い梁が存在感を放っています。様々な課題を乗り越えながら工事は進み、「多喜屋」の完成は2020年秋。古い建物がもつ風格や伝統工法が醸す粋はそのままに、風情あるたたずまいへと再建される様子は、さながら町並みが息を吹き返すかのようです。
菅さんは、仁尾縁を「アルベルゴ・ディフーゾのようにしていきたい」といいます。これはイタリア語で「町全体をホテルに見立てて、持続可能なまちづくりをすること」を意味しており、数百メートル圏内をホテルの敷地と見立て、町の住人のように暮らしながら滞在することを目的としています。歴史的建造物や空き家を利用した宿泊施設、レストランなどの飲食施設、温泉などのリラクゼーション施設など、さらにそれらのサービスを受けるための受付も各所に設けることで、訪れる人たちが町全体を回遊できるようなまちづくりにするのです。「『仁尾縁』が目指すのも、従来からあるものに手を加えながら活用して仁尾町をまるごと楽しんでもらえるような、まさに伝統集落の再生。『多喜屋』を拠点に、町内の飲食店や歴史ある銭湯、世界中から人を呼び寄せる魅力のある風景を楽しんでほしい」と菅さん。その言葉からは、長くこの地に根を張り、地域とともに成長し続けてきた企業の矜持を感じました。
Interview 2020.7.2