パートナーインタビュー
長く受け継がれていくものづくりを。
創芸
「小さな家具でも建築である。置かれるべき環境を考慮し、確かなものづくりを行う」をコンセプトに、建築設計事務所と家具製作工房の二足の草鞋を履く「創芸」。1965年に家具づくりを行う木工所としてスタートして以降、家具のデザイン製作や修理、住宅店舗の建築設計、そしてミュージアムの実施設計や展示ケース製作まで多岐にわたるものづくりを行ってきました。
今回話を伺ったのは、代表取締役の久保勇人さん。創芸は、久保さんの父が設立した会社で、幼少期から自然とものづくりの現場が身近にあったといいます。「子どもの頃の遊び場は家具工場でした。木片を積み重ねて遊んでいましたね」。その後も、ものづくりへの興味は醒めることなく、大学ではデザイン学科の住空間デザインコースを専攻。建築家としても活躍するプロダクトデザイナーの黒川雅之氏のもと、工業デザインと建築を学びました。
大学を卒業後は、店舗設計を行うデザイン事務所にインテリアプランナーとして入社。そこで早くも転機が訪れます。「大型商業施設の現場定例会議でも、わからない建築専門用語が飛び交って、自分の現状に限界を感じました。同時に、本格的に建築に挑戦したいと思いました」。その後、建築設計・都市計画などを行う「株式会社Team Zoo いるか設計集団」で個人住宅や公共・民間施設の建築経験を経て、創芸に入社しました。
「どの仕事においても、人との対話にじっくり時間をかけています。長期的な視点で柔らかい考え方を持つことが大切だと思います」。長く暮らし続けることのできる住まいを提案するためには、暮らし方の変化を考慮する必要があります。例えば、高齢になったときに、今のバスルームのままで良いのかどうかなど、デザインだけでなく、今後起こりうることも想定して設計することは、お施主さんが快適で心地よい暮らしを保つためには重要なことだといいます。
リノベーションにおいても、居心地の良さは欠かせないと話す久保さん。仕事の6割がリノベーション案件だという創芸は、歴史ある趣きを残しながら、採光・断熱・耐震などの性能や安全面の改修に力を入れています。
「やはり、住まいなので不安要素があってはいけないですよね。問題点はしっかり解決します。ただ、歴史や思い出がつまっている建物なので、建築を再評価して残せるものは活かします。そうすることで、さらに価値が高まり、長く受け継がれていくと思っています」。
建築の仕事の傍ら、登録有形文化財や伝統工芸に関わる活動も行う久保さん。
登録有形文化財の調査や登録の支援をする「香川県歴史的建造物保存会議」の副代表を務めており、地域の歴史的建造物の保存に力を注いでいます。
「大学のときに、歴史的建造物である佐渡ヶ島の能舞台の調査実測と図面化を行いました。そのときの経験が今も活きていますね」。
なかでも久保さんの記憶に色濃く残っているのが、高松市六条町にある高原水車の修繕。高原水車は、江戸時代に旧古川の地形を利用して高松藩士により使われ始めた水車で、長年製粉や精米などに使われてきました。かつて香川県内でも348基あった水車。しかし、年々数が減り、現在は高原水車が四国で唯一の盛時の姿とどめる水車となってしまいました。
久保さんは、建築を中心に修理設計から活用までを担当。そこで、水車に関わる人たちと出会い、刺激を受けたといいます。「水車大工って知っていますか。昔は大工も細かく専門が分かれていました。でも四国に水車大工はもういなくて…高原水車の修繕は、久留米市の水車大工 野瀬秀拓さんが高原水車友の会と一緒に行いました」。
歴史的建造物がなくなるということは、職人の仕事が減り、私たちの暮らしから長年培われてきた高度な技術や先人の知恵が失われていくことなのだと痛感します。
「建造物が残っていることで、素晴らしい技術に気づくことができますよね。それが大事なんです」と久保さん。
伝統工芸も、ものづくりや職人技の観点では建造物と同じ。2010年の瀬戸内国際芸術祭から毎回「漆の家プロジェクト」に参加しています。きっかけは義父であり人間国宝にも登録されている漆芸家の太田儔氏の勧め。男木島出身の漆芸家の実家を活用し、「漆のある暮らし」を考える場として、漆の魅力を引き立てる空間づくりを行ってきました。
「ものづくりはおもしろいですよ。建造物も、モノも、周辺環境や地域と大きくつながっています。例えば、住まいは立地環境によって設計に盛り込む情報が異なってくる。そして、ものづくりに関わる職人の視点や、時代背景などさまざまな要素が絡まり、生み出されています」。
ものづくりへの興味から建築の仕事へと発展し、歴史的建造物の保存活動も行う久保さん。
取材を通して、ものづくりに対する熱意を伺うことができました。