パートナーインタビュー
四国の豊かな自然と、生まれ育った 高知の原風景を守ること。
室内楽
香川県東部の志度湾を車で走り、「室内楽」の事務所を訪れました。夏の日差しに美しい影を落とす緑の木々に囲まれた庭を抜けると、事務所の奥の丘の上には、主宰の大野晃貴彦さんのご自宅があります。高知の木と漆喰、香川の庵治石など四国の素材を使って建てたご自宅には、施主様を招くこともあるのだとか。事務所とご自宅の周辺の自然環境は、大野さんにとって豊かな発想をもたらせてくれるそうです。
1988年に建築事務所「室内楽」を設立した大野さんは、住宅設計を中心に新築・リフォーム・商業建築を含め、数々の受賞歴を持つ建築家。斬新なデザインの店舗や、古きよき日本家屋をモダンに再生した住居、手がけた建物は、ひとつとして似たデザインはありません。ただ共通して感じるのは、洒脱で“美しい”ということです。
「私が設計建築する住宅は、自然素材の家です。木・漆喰・和紙を使うよう心掛けています。四国は家づくりの資源にも恵まれ、気候風土もいい土地ですから」
大野さんは高知県の出身。九州の大学を卒業し、四国に戻りました。
「私が育ったのは仁淀川の清流と山に囲まれた場所。山の中腹に民家が点在し、家の周辺には茶畑が広がる田舎が、私の原風景です」
白で統一した事務所の壁には、ご実家のある山間の風景の写真が、大事に飾られています。
「高知には、木・漆喰・和紙をつくり出すことができる豊かな土俵があります。自然素材を使うことで、幼少期を過ごした風景を守ることができれば、思っています」
常に向上心を持っている大野さんは、茶道の修行のために、京都に通っています。
「建築には経験に基づいたノウハウに加え、常に感性が大事です。建築を突き詰めていくと茶室にたどり着きました。『茶の湯』の世界は、日本の自然と人によってつくられた、美と精神の到達点かもしれない、と思うのです。それだけに奥の深いものですし、今の時代に必要な、心のあり方を学ぶ場だと思っています」
また、一級古民家鑑定士でもあり、リノベーション物件も多く手掛けています。
「必要なものと必要でないものを見分け、いいものを残すためにはノウハウと感性が必要。空き家は、住居のほか、商業施設、民泊や美術館などの施設として再建します」
家と人生は深く結びついているもの。
「予算だけでなく、どんな風に暮らしたいかを大事にしたいですね。そしてクライアントの方が理想とするものをきっちりと造っていく姿勢は、これからも変わりません。どんな仕事もそうだけど、体力の続く限りはやっていきたい」
「イベントで知り合った京都のご夫婦から、別邸の建築を依頼されたことがあります。海外生活で培った感性や、冒険心のあるご夫婦でした。奥さまの好きなバリの暮らしを知るために、バリへも渡りました。その土地の自然を知り、考え方を理解するためです。現在もその方とは関係が続いていますよ」
現在、若手建築家を束ねた「ILAC(I Love Architect Community)」も主宰している大野さん。次世代の建築家とお客様を結ぶ取り込みです。
いつも大野さんの建築の考えの基盤にあるのは、生まれ育った高知の原風景。大野さんの住環境デザイン、まちづくりは、日本の豊かさを忘れないように、と教えてくれているようです。
Interview 2020.7.3