あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-16 Fusion of old tools used for years and a sense of fun長い年月を刻んできた古道具と遊びゴコロの融合

September 04, 2020

カマ喜ri

物語を紡ぐ店づくり

子どもの頃のワクワクするような心のざわめきを、大人になった今もふと感じることがある。さわやかな田園風景のなかにひときわ目を引く紅白の柱。国道11号からも見えるその紅白は、うどん屋「カマ喜ri」(かまきり)の目印。
 鈍色のトタン壁に古材がベースになったお店の看板。元駐車場だったであろう赤い屋根が「カマ喜ri」への入場ゲートのように思える。通り抜ける際にガタガタ揺れる車の振動が、ワクワクする気持ちを更に掻き立てるかのよう。なにやら宝探しをしに来たような感覚になった。
 自分の好きなことをしたいと、サラリーマンを辞め、うどんの道へ足を踏み入れた店主の秋山京介さん。三年の修行期間を経て、家業の跡地に自分の店をオープンさせたのが十年前。

お店の入口。錆びた一輪車に「OPEN」の文字

元々ここは、秋山さんの実家でご両親が電気屋を営んでいた場所。電気屋を畳んでから、暫くの間空き家になっていた。そんな思い入れのある自分の店の中でもお気に入りの場所は、全客席から見える厨房。一番落ち着く自分の居場所であると同時に、つくる者としての意識が高まるところでもあるという。
「人と違うおもしろいことがしたい」という想いは、厨房の設計だけでなく、お店の至るところに感じられる。店内の漆喰壁は、ワークショップで集まった人達に思い思いに塗ってもらった。よく見ると、なかなか個性豊かな味わい深い仕上がりだ。ショーケースやレジカウンターなどお店のインテリアのほとんどは、この場所に残っていた什器を再利用している。秋山さんのユニークな発想と長年使い込まれた道具の風合いが絶妙なバランス。ワクワクするけれど、落ち着く秘密基地のような空間の理由は、そこにあるのかもしれない。

左:客席から見た厨房 中:ながしをしていたお祖母様が愛用していたおかもち 右:醤油瓶ケースはレジカウンターに 

 取材の最後に、「カマ喜ri」の由来を教えてくれた。もともと釜揚げうどんのお店をしようと計画を立てていたが、届いた釜は想像よりも小さく、「釜あげ」ということばが使えなくなった。「カマ、、、」に、奥様の名前の「喜」 を合わせて「カマ喜(かまき)」、、、。そうなるともう、「リ」しかないやん!ということになった。ならばいっそのこと読みにくくしよう、という具合で「カマ喜ri」の名が付いたそう。
 このストーリーを聞いたとき、全てが腑に落ちたような気がした。秋山さん自身、全力でお店作りを楽しんでいる。この場所は、店主の遊びゴコロが詰まった基地なのだ。

ー2020年9月

  • 店内には観音寺の作家、西岡なぎささんとコラボした
    オリジナル商品も

  • テラス席の奥に見えるのは、3年前に植えた柳の木。
    今後お店を緑で囲む予定だそう

カマ喜ri Tel.0875-24-8288

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