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パートナーインタビュー

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時を超える結晶・庵治石を、暮らしのそばに

石材商 太元屋

香川県高松市・五剣山の麓で切り出される庵治石は、香川県を代表する最高級石材。長石、石英、雲母などからなり、高い硬度と耐久性があることから、別名「花崗岩のダイヤモンド」と謳われ、世界でも高く評価されています。風化・変質にも強く彫刻の文字も崩れにくいため墓石に加工されてきました。

そして、庵治石を採掘できるのはここ高松市庵治町、牟礼町のみ。そのためこの地域では昔から石材業が盛んで、多くの石材店が軒を連ねてきました。

「庵治石材産地の石屋は代々分業制です。山で石を採ってくるのは『丁場師』、採ってきた石を加工するのは『仕立て師』と呼ばれています。丁場とは、石の採掘場のことです」
そう話をしてくれたのは、高松市牟礼町にある「石材商太元屋」の代表取締役 和泉憲 さんと奥様の恵美さん。

創業は1985年。それ以前からも代々丁場師の家系で地元の同級生だというお二人の、庵治石にかける情熱は並々ならぬものがあります。墓石だけにとどまらず、建築工事を始め、オブジェや景観石の石材提供や施工、インテリア雑貨など庵治石の専門店として、これまで以上に庵治石の活用法を広げていく活動を精力的に行っています。
分業制の庵治石産地で、丁場師の太元屋が、このような活動ができる理由の一つには、恵美さんの祖父が、かつて災害で丁場を失い、一時期、仕立て師の会社で勤務していたことが挙げられます。その後、丁場を降りる方から山を譲ってもらい、再び丁場の仕事に復帰。その際太元屋を立ち上げ、仕立て師の経験も活かして加工や販売も始めました。

そして、憲さんの経歴は、この石材業界では異色でした。もともと和泉姓といえば、大阪の石工の技能集団で、技術を伝来するために香川に来たと言われる一族。しかし、憲さんの祖父が戦死し丁場を手放してからは石材業から離れ、父は公務員、憲さん自身は大手電機メーカーで営業の仕事についていたそうです。しかし恵美さんとの結婚を機に、一念発起してこの業界へ。
サラリーマンから庵治石材産地に入るため、まずは受け入れてもらうところから始まりました。組合活動や子ども会活動、自治会活動など積極的に参加し、地場産業の発展を第一に考えながら、地域の子どもたちのことも忘れません。子どもたちの未来を考え、現在は高松市教育委員会の委員をはじめ、役職を6つほど兼任しています。

庵治石をもっと広く知ってもらいたいと、庵治石のブランディング事業に新しい風を吹き込んでいる和泉夫妻。庵治石は墓石に使うものだと思われがちですが、工務店から依頼を受けて床や壁、インテリアなどの建築材への活用に力を入れています。

左:マンションのリノベーションで、玄関の床に庵治石。一つひとつ色や模様が違うため、組み合わせひとつで雰囲気を変えることができる 右:壁面にも庵治石

 

そして、2025年には日本初!庵治石が中東ドバイへ。ドバイの5つ星ホテル内の日本食レストランのメインカウンターをはじめ、壁、階段、看板、沓脱石、景石、バーカウンターの施工を行いました。この機会をきっかけに庵治石の価値を高め、庵治石の事業者全体が良くなればと話す憲さんです。

メインカウンター。現地で1週間ほど工事に立ち合った憲さん。ドバイの職人さんたちと憲さんの出で立ちが似ていて、すぐに馴染んだんだとか

また、恵美さんは「aji stone interior room e Moyō (えもよう)」という名で、庵治石を自由にデザインした様々なインテリア雑貨を手がけています。
幼い頃から、採石場の発破や加工場の切削機、石を叩く音を聞き、空地の積み重なる庵治石の原石が遊び場だった恵美さん。道端に記念碑や彫刻作品が並ぶ、まるで美術館のような景色の中で育ったからこそ「庵治石を遊ぶ。」をテーマに自身でデザインから加工まで行っています。

庵治石の魅力がたくさん詰まったオブジェ インテリア雑貨「e Moyō 」の数々

「採石場の97%くらいは使えない石。出荷できるのはほんの3%くらいです。その3%のうちの9割が墓石に使われます。だから高級なんです。でも、お墓になれなかった石に価値がないかっていうとそうじゃない。含まれる鉄分の量によって様々な色に変化し、その表情はひとつとして同じものがない味わい深い石なんです。澄ました顔立ちの石も良いけれど、こんな遊びのある庵治石も良いかなって」と、笑顔で話してくれました。

Aji stone interior room e Moyō 。ここで展示している庵治石の作品は購入することもできます

庵治石は著名人の墓石や首相官邸の景石に使われるなど、その存在は高く評価されているものの、まだまだ全国的には知名度が低いと話す二人。積極的に建築材や庭石、モニュメントやインテリアへと生まれ変わらせて庵治石の可能性を広めていきたいと語ります。

事務所の入口にもふんだんに使われる庵治石。壁のサイディングや置き石など、活用方法は無限大

Interview 2025.10.29

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