あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-59 The rice storage house became a hobby house米蔵を好きなものがつまった遊び場に

September 02, 2022

LUCY&JOSEPH

魅力を引き立てる和洋の融合

香川県にある大型ホームセンター「西村ジョイ」が毎年開催しているDIYコンテントがある。一般の参加者が自慢のDIY作品を応募し、ガーデン、造作、ペットと暮らすアイデアなど、各部門で大賞が決まるというものだ。
 二〇二一年のリフォーム・リノベーション部門で見事グランプリに輝いたのは、刺繍作家の郷田さんが手掛けた古民家リノベーション。築およそ六十年の米蔵を五年かけてDIYで改修した。
 少し錆びたホウロウランプの下に、ドアが三つ並ぶ蔵。扉を開けると、入口にディスプレイされたミニチュアのイスや蔵の中に浮かぶシャンデリア、部屋の一角に置かれたウッドベース…目に入る一つひとつの要素が心をくすぐり、一瞬にしてその空間に引き込まれていく。

この場所のために新たに購入したものはシャンデリアのみ。長年のコレクションをディスプレイしている

蔵がある場所は、子どものころからよく遊びに来ていたという親戚の家。蔵はその母屋に隣接している。「以前からなんとなく蔵の雰囲気に惹かれていて、リノベーションしたらおもしろそうだなと思っていた」と話す郷田さん。親戚が家を空けることになった際に、借りることを決めたとか。引き継いだ当時、農具や機材がそのまま残っていた蔵。一年半を片付けに費やし、床張りや塗装、電気配線までほぼ一人で改修した。
「好きなものに囲まれた空間」をつくるために始まった作業に、特に具体的なプランはなかった。シャンデリア越しに見える重厚感のある梁や、柱を介した白い漆喰と淡いグリーンのクロスの切り返し。天井からぶら下がった年季の入った鉄の滑車は米蔵だった当時の情景を想起させる。唯一意識したのは、昔ながらの建物の良さを残し、洋の要素を足した程よい和洋の融合だった。
 そうしてできあがった場所は、住まいでもなく、アトリエでもない郷田さんの好きなものだけが詰まった「遊び場」になった。

和の空間。昔ながらの建具に和紙を張って大正レトロな雰囲気に。
ライトアップされたアートは、屋島から拾ってきた流木に花を生けたもの

 昔から古いものを修理したり、リメイクすることが好きだったという郷田さん。粗大ごみに出された家具や道具を拾ってきては修理して遊んでいたとか。「古くなって捨てられたものが生まれ変わるのって、すごく楽しいんです」。郷田さんの手にかかれば、一度使われなくなったものたちが次々と生き返っていく。
 リサイクルショップで安く手に入れたイスは、ボロボロの座面を北欧柄の布に張り替え、蔵に放置されていた農具は、網や木枠を活用したウォールディスプレイに。さらにそのクリエイティブな発想は、建物やインテリアだけにとどまらない。「ネットで五百円で買いました」と楽しそうに話す目線の先には、二十年前のiMac。基本的な機能を復元させ、音楽好きな郷田さんのミュージックプレイヤーとして使われている。「いろいろと自分でつくっていると、ものの見方が変わってきます。何でも自分でできそうと思ってしまうんです」。

(左)実家から持ってきた古道具の輪っかには、ドライフラワーをハンギング
(右)祖母の箪笥は、お酒のショーウィンドウに。扉をくり抜きアクリル板を張ってライトアップさせた

 実は、住まいも中古物件のリノベーション。隣の母屋も少しずつリノベーションしている。
「ものを大切にしたい」「足りなければ、あるものを使って自分でつくり、壊れたものは修理する」。そんな気持ちや考えが郷田さんのものづくりのベースにある。

ー2022年9月

母屋のリビング。建具や壁をあえてアンティーク風にDIY

今回取材させていただいた郷田さんが手がける刺繍ブランド「LUCY&JOSEPH」では、
オーダーメイド作品をはじめ、刺繍ブローチや小物を制作販売している。

LUCY&JOSEPH  HP

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