あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

File-83 A Way of Life Inspired by What They Love.好きなことから広がる、
心地よい暮らしのかたち

October 30, 2026

パン教室 delme

パンと畑と、
もうひとつの居場所

「古民家でパン教室を開いている」と聞き、話を伺いに訪ねた。田園風景が広がる高松市南部。新しい住宅地が増える一方で、古民家も点在する、のどかな風景が残る地域だ。
 田畑が広がる道を進み、目指す場所にたどり着くと、一軒の農家住宅があった。駐車場には、教室に通う生徒さんたちの車が数台並んでいる。玄関には「パン教室 デルメ」と書かれた、かわいらしい看板。扉を開けると、母屋と納屋をつなぐ土間が広がっていた。「こんにちは。どうぞこちらから」そう声をかけてくれたのは、パン教室を主宰する佐川有紀さんだ。

        金木犀が香る築92年の古民家

       「パン教室 デルメ」の手描き看板

パン教室を主催する佐川有紀さん

  人数制の対面レッスンは、毎回満席になるほどの人気。丁寧な指導も魅力

福岡県出身の佐川さんは、パン作りがしたいという思いから、短大卒業後、パン製造の会社に就職。その後、株式会社クオカプランニングに転職し、高松店の立ち上げを機に香川県を訪れた。
「高松は人が優しいし、コンパクトでとても住みやすいですね。晴れの日も多いしね」そう軽やかに話す佐川さん。パンづくりをきっかけに訪れた香川で、暮らしを重ねてきた。
 独立後は自宅でパン教室を開いていたが、生徒さんが増えるにつれて手狭になり、新たな教室の場所を探し始めたという。佐川さんがつくるのは、シンプルで、素材そのもののおいしさを生かしたパン。その味わいも好評で、教室は人気を集めている。
「駐車場スペースや広さ、予算など、条件にあう物件は街なかではなかなか見つからなくて。そんなとき、ふと思い浮かんだのが「古民家」という選択肢でした」。

母屋と納屋をつなぐ土間。梁や建具はそのまま生かし、大工の手仕事が光る

いくつかの物件を見て回る中で、間取りが使いづらかったり、どこか重たい雰囲気を感じたりすることもあったという。そんななか、出会ったのがこの場所だ。「ここなら教室にできそう。内見したとき、パン教室を開くイメージが自然と浮かびました」高松市街地からも近く、生徒さんが通いやすい立地も魅力だった。
 施工は店舗内装を手がけるパートナーに依頼。手を入れたのは、パン教室として使う納屋と、母屋の洗面まわりのみ。できるだけ費用を抑えるため、空間のデザインは佐川さん自身が考えたという。もともと土間だった納屋には、新たに床を張った。床の水平を整える作業には、思いのほか時間がかかったとそう。壁は下部のコンクリートをそのまま生かし、上部の土壁を漆喰に塗り替えた。既存の素材を生かしながら、佐川さん自身も手を動かし、少しずつ教室の空間を整えていった。

試行錯誤を重ねて完成したオリジナルの発酵機。左右それぞれで発酵できる工夫も

木目の扉をあしらった発酵機も、こだわりのひとつ。パンづくりに欠かせない道具は、何度も試作を重ねて完成させたオリジナルだ。機能性はもちろん、空間になじむ佇まいにも、佐川さんの工夫が感じられる。
 広々とした土間に、昔ながらの趣を残す太い梁。ゆったりとした空間に大きな作業台とキッチンが据えられた光景に、生徒さんたちも感動したという。佐川さんのセンスが光る、シンプルながらも心地よい空間はもちろん、日々の暮らし方そのものが勉強になるという声も聞かれた。
 敷地の一角には小さな畑があり、佐川さんは野菜づくりも楽しんでいる。母屋と教室として使う納屋が分かれていることで、パン教室に向き合う時間と、野菜づくりの時間、そして住まいで過ごす日常。それぞれに気持ちを切り替えながら、自分らしい時間を大切にしているという。「住まいとは別に、こうして過ごせる場所があると、日々の気持ちも切り替わって、とてもいいんです」

一人一台の作業台を備え、広々と作業できるゆとりのある空間

お待ちかねの試食タイム。焼きたてのパンを味わう、至福のひととき

パンを焼き、土に触れ、自分の手で何かをつくる。そんな時間が、佐川さんの日々を彩っている。古民家を自分らしく整え、手を動かしながら過ごす時間。パンづくりをきっかけに出合ったこの場所は、教室であると同時に、佐川さんにとって暮らしの楽しみを広げてくれる、もうひとつの居場所になっている。

ー2026年10月

左:下部のコンクリートをそのまま生かし、上部の土壁は漆喰に塗り替えた。佐川さん自身も漆喰塗りに参加した

右:隣に設けたオーブンスペース。作業スペースを広く確保できるようになった

左:納屋と母屋をつなぐため、新たに天井を設置。既存の梁には、ちょうなで削った跡が残る

右:出入口に設けた扉も、佐川さんのセンスが光る一枚

              
              当時の大工の手仕事や技が随所に見られるのも、古民家ならではの魅力

パン教室 delme Instagram

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