あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

パートナーインタビュー

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暮らし方を、ていねいに問いかける


山猫百貨店一級建築士事務所


2025年10月、高松市伏石町・野田池の南側に、「イッケンハンハウス」と名付けられた、ひときわ目を引く小さな建物が竣工しました。
その名の通り、間口は一間半。「山猫百貨店一級建築士事務所」の仕事場兼自宅です。

代表の山根侑己さんは、大阪での活動を経て、2019年にUターンで香川へ。香川県での仕事が増え、関西の仕事との割合が半々ほどになったことをきっかけに、拠点を移しました。現在も関西での仕事を続けながら、住宅だけでなく店舗やオフィスの設計にも携わっています。

「山猫百貨店」という印象的な屋号は、「山根」からついたニックネーム“山猫”に由来します。かつて雑貨や子ども服の企画販売を行っていた時期もあり、「建築だけでなく、暮らしに関わることを幅広くやっていきたい」という思いを込めて「百貨店」と名付けたと話してくれました。

今回お伺いした「イッケンハンハウス」は、間口約4m、奥行き約15mという細長い敷地に建つ2階建ての木造建築です。区画整理で生まれた保留地であるこの土地を最初に見たときは「ここに家は建てられない」と感じたそうですが、図面を描くうちに可能性が見えてきたといいます。

「小ささ」と「狭さ」は違う——仕事と暮らしが混ざり合う中で、必要な機能をどう空間に落とし込むかを考えたといいます。
キッチンや浴室などを組み込みながら、「ここで生活できるか」「仕事ができるか」を一つひとつ検証。夜は寝室として使う和室も、日中は打ち合わせスペースとして活用するなど、時間によって用途が変わる設計です。

「住まうことと働くことを、切り分けずひとつのものとして考えています。この空間の中に、生活も仕事もまとまっている。そんなデザインにしたいと思いました」と話す山根さん。「打ち合わせ室」と名付ければ、その役割に限定されてしまいます。しかし住まいは本来、もっと自由に使われるもの。特定の用途に縛られない発想が、柔軟な空間づくりにつながっています。制約のある間口は、結果的に新たな可能性を引き出すきっかけとなりました。

山根さんの設計は、「どんな家にするか」ではなく「どんな暮らしをしたいか」から始まります。「寝室は6畳欲しい」という要望よりも、「どんなふうに眠りたいか」「どこに布団を敷きたいか」といった暮らし方を大切にしています。

【まんなかにほんだなのある家|木のマンションリノベーション】

例えば「本が多い」という話から、「どこで読むのか」「一箇所に集めるのか、それとも点々と分散させるのか」と、空間のあり方を具体化していきます。
実例のひとつ「まんなかにほんだなのある家」では、家族の本を一箇所に集約することで、誰がどんな本を読んでいるのかが自然と共有され、家族の関係性をゆるやかにつなげる空間が生まれました。

「どんな住宅をつくりたいか、ではなく、どんな暮らしをしたいかを一緒に考えたい」 朝はパンかご飯か、趣味は何か——そんな何気ない会話から、暮らしの輪郭を引き出していくと山根さんはいいます。

「木っていいな、と思ってもらいたいんです」
かつての職場で、木目調シートのフローリングを使っていたこともありました。冷たさや、木ではない触り心地に違和感があったそう。その経験から、本物の素材を大切にするようになったといいます。その中でも特に好んで使うのは杉。やわらかく、素足で歩いてもあたたかい感触があり、日本各地で手に入る身近な素材です。

こちらのマンションリノベーションでは、無垢材を積極的に採用。管理やコストの制約から敬遠されがちな素材ですが、「マンションでもこんな木の空間ができると知ってもらいたかった」と提案。施主からも、毎年床にワックスを塗っているという報告が届くなど、暮らしの中で木への愛着が育まれているようです。

「肌に触れる部分には、やわらかくて気持ちいい素材を使いたい」。その思いから、床材にも杉をすすめています。材木店で施主と一緒に木を選ぶこともあり、柱や一枚板のテーブルなど、空間にちょっとおもしろい個性を添える提案を行っています。

左:靴をはかずにモノを取りに行けるようにした「飛木」。木が乾燥して割れる前に「背割り」をしている。 右:玄関框には硬く上質な栗材を使用し、側面には“なぐり”の技法で表情を加えています。手すりにも同じ仕上げを施し、質感を揃えました。光が当たる部分と影になる部分が生まれ、陰影の美しさが際立ちます

これからも続けていきたいのは、「木を選ぶこと、木を好きになってもらうこと」。
そして将来的には、小さな“百貨店”のような場をつくり、建築だけでなく暮らしに関わる人たちと、ゆるやかにつながる場を育てていきたいと語ります。

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