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パートナーインタビュー

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建具の技術を次世代へと継ぐために

森本建具店

高松市三谷町で昭和21年から続く「森本建具店」。建物には欠かすことのできない部屋と部屋を仕切るための戸や障子などを、一つひとつ手しごとで製造しています。今回お話を伺ったのは、3代目で建具職人の森本隆さんと、妻で商品のプロデュース等を行う理恵さん。

木に加工を施す森本隆さん

隆さんは、香川県が認定する「組手障子(くでしょうじ)」の伝統工芸士でもあります。組手障子とは、組手細工といわれる建具技法を使った障子のこと。障子の格子には、厚さや長さを調整した数ミリほどの木片を、釘を一本も使わずに組み付けた幾何学模様の組手細工が施されています。これは、0.1ミリの誤差があるだけで上手く組み付けられない高度な技術。そして、組手障子には洗練された技術に加え、木の素材を見極める知識と経験が求められます。「職人は、10年後の木の状態まで考えなくてはいけない」と隆さん。技術と知識、経験が合わさって初めて、年月を経ても美しい組手障子が完成するのです。

縁起の良い麻の葉の伝統紋様を、巧みに使った組手障子

しかしながら、「最近は、建具という言葉自体を知らない人が増えてきたように思う」と理恵さん。かつて、家を一軒建てるのに100枚以上の建具が必要とされていた時代から、暮らしの西洋化が進むにつれて、建具は屋内だけのものとなり、必要とされる建具の数も徐々に減っていきました。

同時に、建具の形式や材料も変化。大工が建物に枠をつくり、建具職人が現場で大きさを測ってぴったりとはまるように製造されていた建具は、アルミサッシなどメーカーが大量生産する既製品へとシフトしていきました。

「建具をつくる技術が滅んでしまうかもしれない」と危機感を感じた隆さんは、技術を残すための苦肉の策として、約20年前に組手細工の技術を使ったサッカーボール型のパズルを生み出しました。それ以降、「建具の技術を身近に感じてもらいたい」という思いでつくられたのが、行灯(あんどん)やバック、コースターなどの生活雑貨。もともと服飾デザイナーだった理恵さんのアイデアと隆さんの技術で、試行錯誤を重ねながらつくり上げられました。

組み立て後のサッカーボールパズル

組手細工の技術を使いつくられたコースター

昨年の春、亀水町にあるアキリノの古民家・旧南原邸では、家屋の建具がびくとも動かなくなったことがありました。状態を見に来てくれた隆さんは、「鴨居が下がってきて、戸が動かなくなっていた」と教えてくれました。歪んでしまった枠に合わせて、建具を手作業で少しずつ削っていきます。寸分の狂いなくぴったりとはまった戸は、再び滑らかに動き始めました。「建具と書いてドアと呼ぶ。そのくらい建具ってとても身近なものなんです。不具合があったときはいつでも頼って欲しい」と理恵さん。

旧南原邸での作業の様子

最近は、子ども向けのワークショップで組手を教える機会も少しづつ増えてきました。今後一番したいことを尋ねると、「若い人や子どもたちに教えたい」話す隆さん。「ワークショップに参加してくれた小学生が、学校で組手について話してくれて、小学校でもワークショップをすることになったときは本当に嬉しかったです」。

歴史ある技術を受け継いだ森本さんの、建具職人としての誇りと決意を伺うことができました。

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