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文学不動産

File-30 Simple and beautiful life living with nature 自然とともに生きるシンプルで美しい暮らし

January 22, 2021

季節をたべる食卓numar

あらゆるものを受け入れる場所

香川県の南西部、讃岐山脈の麓に広がる丘陵地帯にあるまんのう町。その地で育つ農作物のおいしさに魅了され、七年前にオープンした料理店がある。広々とした庭の奥に、どこか懐かしい昭和の雰囲気漂う平屋。そこが、「季節をたべる食卓numar(ヌマー)」だ。地元でとれた旬の食材を使ったやさしい味わいの料理に、ファンも多い。
「地に足をつけた料理を提供し、そして自然に近い生活をしたかった」と話す店主の淵上義哉さん。
そんな暮らしを求めて出会ったのが、築およそ六十年の民家だった。
「新築も考えましたが、化学物質が多く使われている家では、料理に欠かせない菌がおりにくいんです。麹すらできない。だから古い民家にしました。山付きだったことも決め手になりましたね」

広い庭があったことも、この家を気に入った理由だという。更地だった庭に木々を植えた

以前、大工さんが住んでいたということもあり、状態が良かったという家屋。昔から続く自然と調和した暮らしを壊さないように、可能な限りもとの形を残したという。
 手を加えたのは、壁と床、そして入口のドアと薪ストーブだけだ。それも壁と床は、淵上さんのDIY。オーダーメイドの家具屋bungalowを営むお兄様につくってもらったというテーブルとイスに合わせるために、DIY初心者ながら、畳を外し床を張ったという。そんな淵上さんの空間へのこだわりは、店内のいたるところにつまっている。
 客室と台所をつなぐ廊下の壁には、アフリカの民芸品をはじめ、珍しい道具や雑貨が並ぶ。
「ヘテロジニアス(異種)が混在する環境をつくりたかったんです。自然界にも様々な物質が存在し、作用し合っています。そんな混沌とした状態を表現したかった」と淵上さん。

左:愛犬のふうちゃんがいる奥のスペースには、淵上さん夫婦が集めた本や雑誌が置かれており、自由に読むことができる 
中央・右:バンドやDJをしていたという音楽好きの淵上さん。やわらかい音の響きを好み、家屋も木造にこだわったという

 淵上さんが参考にしているのは、十九世紀のキリスト教の一派で、質素でありながらも美しい暮らしをしてきたと言われているシェーカー教徒の暮らし。
 自然を感じる居心地の良さと、その土地の土・水・空気でつくられた新鮮な自然の恵みを得られる環境こそ尊く美しい。
「季節をたべる食卓numar」は、そんな目の前の幸せに改めて気づくことのできる場所だ。また訪れたいと思わせる理由もそこにあるのかもしれない。

ー2021年1月

内縁もまた、訪れる人のリラックススペースになっている

左:庭では、地域のイベントでお弁当を食べたり、野点の催しをしているのだとか
右:隣の納屋で、有機栽培の農産物を販売する八百屋「百姓ミラクル」

季節をたべる食卓numarInstagram

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