パートナーインタビュー
「地域の建築文化を残すこと」それこそが使命
谷野設計
さぬき市大川町にある「谷野設計」。古民家と古い木造住宅を専門に設計施工を行っています。
谷野設計は、1984年に代表取締役の谷野行範さんが「谷野建築設計事務所」として設立。以来、みろく自然公園の屋外施設などをはじめ、公共施設や住宅まで多岐にわたる建造物の設計に携わってきました。
また、設計監理以外にも、耐震調査や既存住宅状況調査などの調査業務も谷野設計の主な事業の一つ。自治体からの依頼もあるほど、建物の調査において豊富な知識と経験があります。
谷野設計が施工業務を開始したのは、2010年。「ぜひ施工まで一貫してお願いしたい」というお施主さんからの要望でスタートしました。そのとき仲間に加わったのは、谷野さんがとある現場で出会った熟練の大工。「これまで見てきた技術のなかでピカイチ」と太鼓判を押すほどの技術の持ち主で、現在も谷野設計の専属大工として活躍しています。
「それぞれの家族の暮らしに寄り添い、素敵な想い出を育んできた家を長く残していきたい。そんな家を、ご家族と地元の職人さんと共に継承していくことが私の使命です」と家づくりの想いを教えてくれたのは、今回お話を伺った谷野設計の設計士・谷野友香さん。
実は、幼いころから昔ながらの日本の暮らしに興味があったという友香さん。小学生のときの自由研究では、当時町はずれの山中にあった香川県で最古級の農家建築(2001年にみろく自然公園内に移築)で、重要文化財にも登録されている「恵利家住宅」に1日こもり、間取りを調べて発表したほど。日本の伝統文化や歴史が好きで、学芸員の資格も取得。気がつけば寺院やお茶室、古民家などの建物探訪が趣味になっていたといいます。
「ちょっとマニアックなんですけど、特に加工痕を見るのが好き。職人さんの仕事が垣間見えてとてもおもしろいんです。なぜそのような加工になったのか経緯を調べると、その建物の個性や歴史をより理解できてもっとおもしろいです」。もともとまったく違う業界で働いていましたが、自身の興味と父である谷野さんがしていた建築設計の仕事が結びつき、谷野設計に入社しました。
谷野設計が「古民家と古い木造住宅専門」になったのは、2015年のこと。
きっかけは、寺院の庫裏(くり)の改修工事でした。「現場に初めて入ったとき、職人さんが『ほお、ここの大工はこう考えたんか』って言ったんです。まるで昔の大工さんと今の大工さんが対話しているように見えました」と友香さん。
その築180年以上の建物は、不揃いな自然素材を高度な知恵と技術を巧みに使い組み上げられた、「伝統構法」で建てられており、改修工事の一つひとつが手刻みの作業でした。手刻みとは、職人が木の特徴を見極め、鉋(かんな)や鑿(のみ)を使い、手作業で加工していく工程のことです。それは、とても繊細で地道な作業の数々。しかし、現場は活気に溢れ、職人さんたちがとても楽しそうだったといいます。その様子を見て、友香さんは「職人さんの技術を残し、活かしたい。『職人』に誇れる仕事をしてもらいたい」と強く思ったそうです。
同時に、自分たちが極めるべきものは「これだ」と気が付いたといいます。お施主さんが喜んでくれて、職人さんも楽しく働いてくれて、自分たちもやりがいのある仕事。そんな三方よしの仕事は、古民家や古い建物しかないと、古民家専門とすることを決意しました。
「もちろん、古民家専門と踏み切るのは勇気がいりました。でも古民家には一つとして同じ家がないので、一つひとつの現場が楽しいですね。毎回新しい学びがあります。その分、頭を抱えることも多いですが…だからこそ、絶えず勉強することがとても大切だと思います」。
どんな些細なことも、とにかく話し合いをすることを大事にしている友香さん。職人さんとお施主さんの間に立ち、何度もお施主さんの要望や職人さんの意見を聞いてから、形にしています。「古民家リノベーションの場合、お施主さんの希望通りにいかないこともあります。でも古民家を選んだ理由や根底にあるお施主さんの想いをちゃんと読み解いていれば、違う形のご提案ができます」。
工事中の細やかな気配りも友香さんならでは。毎日の工事状況の報告に加え、近隣状況やご近所さんとのやりとりなども状況に応じて報告しています。「工事中は、お施主さんの代理人だと思っています。今後長くその場所で暮らしていくお施主さんが気持ちよく過ごすためにも、忘れてはいけない心配りだと思っています」。
今後は、建物の文化財登録や職人技術の継承にも携わっていきたいと話す友香さん。歴史ある建物が放置され、あき家となり、壊されていく現状に心を痛めているといいます。
「せめて、あき家になる前にその建物の魅力を伝える機会が欲しいです。住まい手は建物の魅力に気が付いていないことが多いです。素晴らしさを伝えると、『そんなにすごい家だったの』と驚き、それをきっかけに『そういえば』と思い出話をしてくれます。家に対する物語を知ることで家族と過ごした時間を思い出したら、家をもっと大切に思えるはずです」と微笑みます。
日本の伝統文化を愛するからこそ見えてくる職人技や建築の魅力。その魅力を後世に残していきたいと奮闘する友香さんの熱い想いを聞くことができました。