パートナーインタビュー

香川県高松市東山崎町の長尾街道沿いにある「長尾賢建築設計事務所」。断熱性や耐震性などの高性能住宅を軸に、住宅の設計を専門に行っています。

事務所は、ビルの階段を上がってすぐ

代表の長尾賢さんは、住宅メーカーで設計士としての勤務を経て、2014年に設計事務所を開設。現在は、耐震・省エネルギー・エコロジー住宅を創る工務店ネットワーク「TSE」の代表理事も務めています。

TSEが目指すのは、性能にこだわった良質な住宅を増やし地域社会を豊かにすること。思いを同じくする工務店と設計士が組織しています。

長尾賢さん

長尾さんが省エネ建築に興味を持ったきっかけは、独立したばかりの頃に参加した建築セミナー。さまざまな分野で発展してきた日本が、省エネ建築においてはアジア圏の中でも後進国であるという事実に衝撃を受けたといいます。「省エネ住宅の構造を知れば知るほど、性能や構造自体、その仕組みが生み出す循環や環境への影響に興味が湧きました」。

住まい手の暮らしを想うからこそ、家づくりにおいては「断熱と耐震が大前提」と長尾さん。「断熱と耐震は、家の血肉の部分です。性能とデザインを天秤にかけることがあるけれど、同じ土俵で比べること自体がそもそもおかしい。家の本質である安全で安心して快適に暮らせる環境があってはじめて、住まい手の個性や理想をデザインで表現することができるのだと思います」。

長い庇とそで壁が特徴の住宅は、リビングに面した壁は窓が多く開放的。駐車場側から見ると外観が五角形に見える

デザインに制約があると思われがちな高性能住宅。しかし、性能面で優れているからできる自由な空間デザインこそ、高性能住宅の良さだといいます。例えば、家全体の気密性が高いことで、家の中の温度を一定に保つことができるため、間仕切りを少なくした開放的な空間を生み出すことができるのです。

無垢材の床に漆喰壁の気持ちのいい室内。奥には造作キッチンをオリジナルで設置

その魅力や必要性は、住まい手にも少しずつ広がり、高い性能を持つ家は一軒一軒着実に増えていっています。その一方で、住まいの快適さや安全性を求める人の多くは、現在の住まいに何らかの不満がある場合がほとんど。「新築に関していえば、知識と技術のあるTSEメンバーで実現することができますが、今後増えていくであろうリノベーションの要望にも確実に応えていきたいです」。

そう話す長尾さんは、つい先日築50年の家屋の改修を終えたばかり。リノベーションでも高性能住宅を実現するために、自身でも中古物件を購入しリノベーションを行いました。

もともとあった門から玄関までの風情のあるアプローチ。リノベーションした家屋の外壁には杉をふんだんに使用している

まずは、年月を経た家屋の構造を理解するための解体工事からスタート。「一般の人にも知ってもらいたい」と、解体ワークショップを開催し、建物構造とその機能性について紐解いていきました。

リノベーション前の解体の様子。自ら解体することで、躯体の腐食や増築による耐震不足など、改めて表面上ではわからない年数を経た建物の構造を改めて調査することができた

「リノベーションは、現地調査がとても大事です。可能であれば、プロの調査士に屋根裏や床下までくまなく見てもらい、表面だけでなく躯体までしっかりと状態確認した上で改修方法を決めていくことが理想的です」。

しかしながら、リノベーションはもともとの予算が限られているため、施主が調査を依頼することは稀だといいます。そのため、今後は建物の調査や診断についても勉強していきたいと意気込む長尾さん。

「リノベーションの場合、部分的な改修が多いので、限られた予算の中でどこまで高い性能を持たせることができるのかということも課題になります。お施主さんにとって心地良い空間になるために、思いや希望を聞くことはもちろん、性能についても詳しくお伝えします。特にリノベーションは、現状によってもプランが左右されるので、一つずつ納得のいくまで話し合いを重ねることを大切にしています」。

耐震上、外すことができない柱を利用して間仕切りに。装飾には瓦のタイルを使い、屋内も自然素材にこだわっている

造作の書棚。棚やワークスペースの机はすべて造作にこだわっている

年々悪化する温暖化による異常気象や、近い将来起こると言われている大地震。そんなとき、家が一番安全で安心できる場所であるということはとても大切です。

長尾さんが提案する家は、断熱や耐震に対応した高い性能と、住まい手にとって心地良い空間。長く愛される家になるようにと、真摯に家づくりに向き合う長尾さんの想いが詰まっています。