あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

パートナーインタビュー

パートナーインタビュー

建造物の歴史を紐とき、現代の暮らしに向き合う

田園都市設計

丸亀城の西に位置する中府町。地域には、海鼠(なまこ)壁や重厚感のある瓦屋根の町家をはじめ、歴史的町並みが残っています。
「この軒瓦は、石持(こくもち)万十瓦といって前面が平らになっているのが特徴で、大正頃に建てられた家に多くみられるようです」と町を紹介しながら事務所まで案内してくれたのは、 田園都市設計の代表取締役・大西泰弘さん。田園都市設計は、住宅の設計はもちろん、景観や都市デザイン、建築材料の開発など幅広い分野で建築に携わっている建築設計事務所です。

田園都市設計の事務所前で事務所(左手前)のリノベーションについて話す大西さん(左)とアキリノスタッフ(右)

今回お伺いした事務所は、昭和28年に建てられた木造の倉庫をリノベーションした物件。当時、丸亀城下町の建造物を調査している際に知り合った倉庫の所有者から、空き物件の活用について相談があり、大西さん自身がリノベーションし、事務所として借りることにしたそうです。
まず、シャッターは取り払い、床を一段上げることに。広々とした空間を活かしつつ、電気設備や水回りは新たに設置したそうです。
「リノベーションにより、そのままでは使えなくなったものに新しい価値を生みだすことができます。時を経た建物だけがもつ価値を見直し、今の暮らしに合わせた新しい機能を加えることで建物に新たな価値が生まれます。それがリノベーションの最大の魅力です」。

大西さんの主な作業スペースは、中央につくられた小部屋の中

田園都市設計の周囲には、まだ数多くの歴史的建造物が残っています。ただ、残念なのは持ち主が県外にいたり高齢のため、空き家になり放置されているものが多いということ。そのような建物は、やがては更地になりマンションなどのビルに変わっていっているのが現状だといいます。
この流れを少しでも変えるべく、大西さんは登録有形文化財の申請補助や建造物の歴史的価値の調査、セミナーや見学会を実施する『香川県歴史的建造物保存活用会議』や、400年の歴史を持つ丸亀城下町を一つの博物館と見立て発信する『Field Museum Marugame』の活動を行っています。

Field Museum Marugameの大西さんの作品(手前)「新旧併存」

歴史的建造物にかかわる活動の以前から、大西さんは研究者や職人とともに長きに渡り土壁の研究をしてきました。歴史的建造物とは築50年以上の建物を指すのですが、丸亀城下町に残る歴史的建造物の多くは町家で、伝統的工法による土壁でつくられています。全国の土壁調査をするなかで、瀬戸内海沿岸で採れる良質な粘土でつくられた香川県内の土壁は、地震などの耐力性能に優れているということがわかってきたそうです。また、土壁は建材として他の性能面でも優れた特性があります。
「土壁は水の吸放出性に優れているので室内の湿度は安定しています。瀬戸内海式気候帯にある温暖な地域で、日照や通風、植物など自然環境を生かした心地よい家づくりをする上で土壁は住宅に適した建材なのです」
その研究から生まれたのが、田園都市設計がつくる「瀬戸内気候型住宅『土の家』」です。

土壁の土の種類について話す大西さん

さらに住まいづくりにおいて、大西さんが近年力を入れていることの一つが「個と距離感」をテーマにした『離れ的』。いま住んでいる住宅には手を加えず、敷地の一角に離れを設けるというリノベーションです。家族で一緒にいること、個人として自分らしく行動すること、この2つの暮らし方を日常生活の中で共存させるためのスペースをつくるという提案です。
「家族の気配や家族との繋がりを感じつつ、自分の領域や時間を確保することが自分自身、家族にとっての心地良さにつながると思います」

BEFORE

AFTER
『離れ的』施工事例。車庫だった場所に建てた小さな離れ。離れは、家族のそれぞれが自分なりの時間を持つための場所になった。2つの建物間に生まれた空間は、玄関エントランスと一体となった広々とした屋外テラスになり、屋外を愉しむ新たな暮らし方がはじまった。それまでの閉じていた空間が外に開かれ、日常の暮らし方は変化しつつある

今回の取材では、建物の歴史から大西さんの考える現代の住宅の在り方までを幅広く伺うことができました。長い歴史をもつ城下町で、建物の保存活用や家づくり、町づくりに取り組む大西さん。そのすべての根底には、建物に対する愛情や職人への敬意、そして住む人一人ひとりへ想いがありました。

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